第11話 竜魔水晶剣

俺は杖を売っていた店にあるその剣を持って眺めていた。

というか、ここでも剣を売っているのなら別にさっきの場所で買わなくても良かったかな…

するとひょこっと後ろから店員の女性が現れた。


「それ気になる?」

「うおっ!?」


突然声を掛けられ、驚いてしまった。


「それ、夫が試作で作った【竜魔水晶剣】ッていうやつでね~。"魔術を使える剣"として売ってたんだけど~…」


気まずそうに目を泳がせる。

?何か売れない原因でもあったのか?


「実を言うと剣士と魔法使いって魔力を使う用途が全く違うのよ~」

「魔力を使う用途?」


女性が言うには

剣士も魔法使いも…というかこの世界で生きてる人間には必ず魔力は宿っている。

だが身体が成長するにつれて自身の中にある魔力をどう使い回すかは赤ちゃんが歩き出すのと同様に自然に身に付くが、その全ての人が同じように魔力を使えるようになるのでは無い。

全身に魔力を流して身体の強化が自然と身に付いた人は剣士に。

魔力を身体強化するのに慣れない人は杖といった媒介を通して魔力を使い、魔法使いへと職業を決めていく。

言うなれば同じ筋肉でも長距離走が慣れてる人、短距離走に慣れてる人と言うように、魔力の使い方によって自身の職業を決めてるのだ。

その為、魔法使いは全身に魔力を送るという行動に慣れてなく、剣士も杖に魔力を流して魔法を使う事に慣れてない。

という事だ。

そこでこの女性の夫が試作したのがこの【竜魔水晶剣】で、剣を振りながらもその剣で魔力を使えるのをコンセプトに開発したらしい…のだが…


「肝心の夫が使いこなせなくて…」


開発者の夫自身もこの【竜魔水晶剣】は使いこなせなかったらしい…

いや、開発者本人が使えないなら意味無いやん…

けど…けどなぜか俺はこの剣に惹かれていた。


これを使ってみたい。


「あの…仮にこれを買うとしたら幾らになります?」

「え…?それ買うの?」


買う事を言った途端にうーん、と何やら考え込む女性。

だが急にニッと笑い、俺に寄ってきた。


「ねぇ君~。私がこれから言う条件を呑めるのならその剣、譲ってあげる」

「…はい!?」


急な提案に困惑する。

いやだってそうでしょ。

こんな高そうな剣譲るってんだから条件もかなりの難易度に決まってる。

だが…


(うー、悩むには悩むが…仮にこれを使うとしたらかなり戦闘も有利になりそうなんだよなぁ…)


俺は試しにその条件を聞く。

その内容はこうだ。


・しばらくはその剣の扱いに慣れる事

・その剣の使い方に慣れたら大きい依頼を野良でもいいからパーティーを組んでその剣で行い、クリアする

・その時にその剣の事を聞かれたら「アンリの杖商店」の名前を出す


この条件を呑んだらこの剣は譲ってくれるらしい。

言うなれば宣伝の様なものだ。

個人的には時間が掛かるが簡単に宣伝する上、貰えるのならありがたい。

という事で俺はその条件を受け、剣自体も貰った。

店員の女性に礼を言って店を出ようとした時だった。

店のドアが勝手に開く。


「おかーさーん、【竜魔水晶】取れた…って、あ…接客中?」

「…ん?あれ?アンナさん?」


俺に名前を言われて「?」というような顔をした後、思い出したようであ!と驚いていた。


「あれー、ジェイル君じゃんー。もしかして杖買いに来て…え、それ買うの?」


…どうやらアンナさんも意外と言いたげだ。

どんだけ放置されてたんだよこの剣…


「ちょっと使ってみたいと思いまして…というかここ、アンナさんの両親の店だったんですか?」

「まーね。初心者向けの杖はまた別にあるけどここは初心者から上級者が使いそうな杖と幅広でそれに組み込む【竜魔水晶】と【龍魔水晶】も売ってるからねー」

「…【龍魔水晶】と【竜魔水晶】…って?」

「あれー?説明聞いてないのー?」


俺が頷くとアンナさんは説明してくれた。


龍魔水晶───

一般的に全ての魔法の杖にはこの【龍魔水晶】と【竜魔水晶】のどちらかが使われていて竜が炎を吐いたりするのにこの水晶は使われている。

言うなれば属性ブレスの大元であり、素材の大元もその名から当然竜だ。

だが、【竜】の方は比較的若い竜…言わば各属性のワイバーン等から取れる水晶で、【龍】の方は古龍…つまりエンシェントドラゴンから取れる水晶の事を指す。

この2つ、同じように見えるが【竜魔水晶】は大きくても硬貨1枚くらいと小さい為、加工するにしても多くの水晶を集めて溶かし、1つの塊にしてから加工される。

逆に【龍魔水晶】は大きく、特に大きい物は成人男性の顔を越える程にもなるらしい。

この【竜魔水晶】と【龍魔水晶】、かなりの値段らしく質や大きさによって【竜魔水晶】なら1つ金貨1枚から、【龍魔水晶】なら金貨10枚から買取りされるらしい。

加工の際は【竜魔水晶】の場合、最低でも10個の水晶を溶かし、型に流し込んで成形し、丸棒状にしてからスタッフなら再度溶かして球体加工され、ワンド型なら丸棒状から切り出して成形される。

が、これは【竜魔水晶】での場合だ。

【龍魔水晶】の場合、その1つ1つが大きい為、スタッフ型なら大きさにもよるが大半はそのまま球体に加工される。

もしもワンド型なら細かく砕いて成形される。

そして杖にするのでも二択ある。


・一属性強化型

・複数属性型


の二択だ。

前者…一属性強化型の場合、同じ属性だけの水晶を使って杖を作る。

この場合、使用者と熟練度にもよるが桁外れの威力が発揮されるが選んだ属性以外では使えない。

後者…複数属性型の場合、違う属性の水晶を溶かして混ぜ合わせ、1つの水晶にしてから杖を作る。

こちらは様々な属性をその杖1本で補えるが各属性の水晶が小さい為、威力は落ちてしまう。


更に杖の形でも二択でワンド型は軽く立ち回りやすいが威力は低い、逆にスタッフ型は大きく立ち回りしにくいが1つ1つの魔法の威力は強い。

その為、魔法使いは【竜魔水晶】を使う者はスタッフ型にして立ち回りしにくいが汎用性を、【龍魔水晶】を使う者はワンド型にして立ち回りしやすいが1つの属性に威力を集中させる形としているのが多い。


というように、1つの杖でも見た目以外にまぁまぁカスタマイズは可能だ。

あ、そういえば…


「すみません、アンナさん、これ代わりに渡してもらえます?」


俺はそう言って1枚の銀貨を渡した。

この国に入る際に肩代わりしてもらった分だ。


「うわー、律儀ー。でも分かった。渡しとくよー」

「あ、そうだ~。ジェイル君だっけ~?君のそれ、竜魔水晶で複数属性型にしてるから試しに色々使ってみてね~」


ありがとうございます。と礼を言って俺はその店を出た。

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