邂逅、ヤバい女! 純情銀髪スポーツ少女はこの先生きのこれるか……!

 美作と一緒に露天風呂を後にすることになったが、誰にも見つからなかったのだけは本当に幸いだった。

 まあ他人に美作が見つかったところで、所詮この世界の大元はエロゲなのでそれらしいイベントが発生するだけかもしれないけど。

 浴衣を身に纏いながら、俺と美作は肩を並べて旅館の廊下を歩く。


「ちょっとは落ち着いたか?」

「はいっス。なんか、色々迷惑かけて申し訳ないっス、チンポ先輩」

「気にすんな。でもそのあだ名はやめろ。お前の浴衣ひん剥いてさっきの男湯に放置してくるぞ」

「ご、ごめんなさいっス……」


 よほどさっきの竿役おっさんとの遭遇がショックなのか、唇を青くしてブルブルと震える美作。

 男湯に単身乗り込んでくるにしては耐性が無さすぎるだろ。マジなんで来たんだよ。

 なんか妙にちぐはぐな美作に頭を捻りながら、俺は今晩借りている自室を目指す。震えながらも美作は俺についてくる。


「…………」


 進む。ついてくる。

 進む。ついてくる。

 俺の部屋が見えてきたけど進む。ついてくる。

 くるっと踵を返して部屋の前に戻る。ついてくる。


「……お前はピクミンか?」

「え? な、なんスか?」

「いやなんで俺についてくるんだよ。お前も自分の部屋戻れよ」


 言うと、美作はとても衝撃を受けたような顔を見せた。いまの俺の発言にどこかおかしいとこあったか?


「普通、流れ的にうちを部屋に連れ込むところじゃないんスか……?」

「なんでだよ。俺はお前に興味ねえし、今日はクソバカどもと離れてゆっくりするんだよ」

「いやっ、でも……」

「あのなあ美作、お前全露闘だかなんだかしらねえけど、温泉であったおっさんにすらあんなビビってただろうが。そんな覚悟で男の部屋に入るとか軽々しく言うんじゃねえ」


 もっと自分を大事にしろ。

 いくらこいつがいきなり男湯にポップするバカみたいな銀髪スポーツ女だったとしても、その純潔を望まず散らされてしまうのは許せることではない。

 だって俺、純愛カプ厨だから。


「……見た目にそぐわず優しいっスね、せんぱい」

「一言余計だぞ」


 視線を落としてしおらしく呟いた美作のデコに軽いデコピンをかまし、俺は彼女が自分の部屋へ戻っていくのを待った。

 美作は俺にデコピンされたところを優しく撫でて小さく笑うと、ぺこりと一礼して自分に部屋に向かって歩いて――、


「…………」

「…………」


 ――いかない。

 俺の部屋前でぼっ立ちモードである。


「なんでだよ……!」

「優しいせんぱいに、ぜひ恩返ししたいっス!」

「お前がいなくなるのが一番の恩返しなんだが?」

「うち、陸上部だからマッサージとか得意っス!」


 聞いてねえんだよンなことは。とっとといなくなってくれよ。

 その後も美作と言い争いを続けたが、この女はテコでも動きそうもないので、結局俺が折れることになった。なんだかなあ……。


「ったく、ちょっと上がって満足したらすぐ帰れよ」

「はーいっス!」


 元気よく返事してくる美作に頭痛を抱えながら、俺は部屋に入った。

 予約していた部屋は八畳一間の部屋で、一人で泊まる分には贅沢すぎるくらいの広さがある。

 俺が風呂に入っている間にすでに仲居さんが布団を敷いてくれていたらしく、一人分の布団が部屋の真ん中に鎮座していた。


「あっ、遅かったね珍歩郎くん」


 あと、浴衣を着崩して布団の上で体を起こしている淫乱ピンクも鎮座していた。


「なんッッッッでお前がいるんだよ!」


 昼間、海水浴場で撒いたはずの篠塚歌恋である。

 この執念深さはもはやホラーだろ。今からでもジャンルをホラーに変えてやろうか。

 平介の姿は……ああ、広縁――旅館の部屋の奥、テーブルと椅子と窓があるスペース――の襖が閉じてるからあの中にいるな……。またいつものプレイの一環だ。


「バカ。人様の部屋に無断で上がるな」


 俺は大股で部屋に上がり、布団の上から歌恋を放り出す。「やんっ♡」と甘い声を上げる淫乱ピンクはもうコイツなんなんだよ。

 ――ガタガタガタッ!

 広縁からはまたいつものガタ音聞こえてくるし。最近の俺、平介の腰ふり音しか聞いてなくねえか? 最低のASMRだな。


「お、大人のやりとりっス……」


 歌恋とのいつものやりとりを、美作がキラキラした目で見つめていた。お前の中の大人像どうなってんだよ。やっぱ全露闘向いてなかったってお前。


「おい美作、見るんじゃありません。こんな性癖倒錯淫乱ピンク」

「ほう、今日は言葉責めからなんだね珍歩郎くん。そういうのも良いかも……いやむしろ良いよっ」

「ガガタガタ、ガタタガタガッタガッタ!」

「『珍歩郎、そういうのもっと言って』じゃねえんだよ平介ェ!」

「なんでわかるんスか……?」


 なんでだろうね。俺にもわかんない。


「平介くんと珍歩郎くんは親友だから心も通じ合ってるんだよね。だからわたしにその珍歩郎棒を突き立てるのは、実質平介くんと珍歩郎くんのセックスと言っても過言ではないの」

「過言だよ。頭沸いてんのか」

「アダルティ……っス!」


 誰かこの純情ガール美作から淫乱ピンクを引き離してやってくれねえか。今ならまだ最低のジョグレス進化を避けれると思うんですが。

 ただ、キラキラした目で歌恋を見つめる美作はもうダメかもわからんね……。

 歌恋はそんな美作を微笑ましい目で見つめていたが、ややあってから目を丸くし、さらにその眉を吊り上げた。


「ちょっと待って。ちょっと待って珍歩郎くん。その女の子は誰かな?」

「美作鈴芽。ガッコの後輩だけど」

「名前は聞いてないの」

「誰かなっつったろ」

「はぁぁ。珍歩郎くんさぁ……これって――浮気だよね?」

「おい淫ピ。辞書で浮気の項目調べ直してこい」


 俺と歌恋の間柄って、究極的には何もない他人だからな? 浮気が発生する余地なんかねえんだよ。

 しかし淫乱ピンクはこの回答に不満のようで、これでもかと思うくらい頬を膨らませていた。


「わたしは旅館の部屋どころかラブホテルに連れ込んでももらえないのに、いつの間に珍歩郎くんは後輩をたらし込むような男になっちゃったの?」

「ガタタガタタ」

「ほら平介くんも『そうだそうだ』って言ってる」

「この人もなんでわかるんスか……?」


 彼女だからじゃない?(適当)


「ともかく珍歩郎くん、わたしたちの許可を得ずに女の子を部屋に連れ込んだのはギルティだよギルティ」

「俺の許可を得ず部屋に入り込んでるお前らもギルティなんだよなあ」

「そこはほら……まあ細かいことはいいよ」


 いちばん大きいところなんだよバカが。

 俺はスマホを取り出して、110番を押した。こういう輩には公権力に頼るのが一番って相場が決まってるからな。


「う、嘘でしょ――、親友をポリ公に売るの!?」

「華の女子高生がポリ公とか言うな」

「ちぇ、ここは撤退するしかないね、平介くん!」

「ガタッタ!」

「あ、わかったって言ったっスね」

 

 美作、お前もこっち側に来ちまったか……。


「行くよ平介くん!」


 歌恋は慌ただしく浴衣を整えると、広縁の襖を開け放ち、平介とともにその向こうの窓から勢いよく飛び出して行った。


「きゃああああああああああ――!?」

「ガタタタタタタタタタタタ――ッ!?」


 ――まあ、窓の外、渓谷なんだけど。

 

「……あの、いいんスか、せんぱい。あの人たちダイナミック投身していったっスけど」

「いいんだよ。あのバカップルがこんな谷に落ちたくらいで死ぬわけねえし」

「そ、そうっスか……」


 あ、さすがの美作もちょっとアイツらに引き気味か? 正しい姿だぜそれは。


「カッコイイっスね、あの先輩……」

「!?」

「欲望に忠実なところとか……見習わなきゃっス!」


 見習わなくて良いっス!

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純愛カプ厨鑓煙珍歩郎は寝取りたくない 国丸一色 @tasuima

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