全露闘vs復讐の竿役! 湯けむりたなびく激闘の果てに……

 例の海水浴場で平介と歌恋のバカップル襲撃を受け、一時は貞操の危機に陥りかけた俺であったが隙を見て逃亡に成功。

 そのままとんずらを決め、もともと宿泊する予定であった海沿いの旅館にチェックインすることが出来た。荷物を部屋に投げ捨て、俺はさっそくこの旅館の売りでもある天然温泉の大浴場へと繰り出すのであった。


「くぁぁ……生き返るぅぅぅ……」


 かけ湯したのち、露天風呂に体を沈める。ちょっとぬるめのお湯が全身に効くぜ……。

 篠塚歌恋こと淫乱ピンクに対して今日も心からのツッコミをかましてしまったせいで、意外と全身にダメージが入っている。あいつへのツッコミって結構体力使うんだよな。

 そんな疲労感に満ちた俺の身体を優しく包みこんでくれる天然温泉。まだ昼間の日が高い時間なので俺以外の客がいないっつーのも最高。ゆっくり体力回復するにはもってこいのシチュエーションだ。


「あぁぁぁぁマジで気持ち良すぎる……」

「はぁぁぁ、ホントっすねえ……」


 露天風呂って良いよなぁ。外気を浴びながらお湯に浸かって、全身がリラックスモードに入っているような感覚。身体中のあらゆる感覚器官が警戒アラートを止めてゆっくりと休んでいるような――。


「――うおお、何奴!?」


 驚き立ち上がる俺。

 いつの間にか俺の隣に、肩まで湯船に浸かっている小柄な女がいた。ったく、音もなく隣にやってくるのは歌恋だけで充分だっつーの。

 小柄な女は、初めて見る顔をしている。

 銀色の髪をショートカットにまとめた彼女は、髪色もさることながら小麦色に焼けた肌がよく目立つ。すらっとしたシルエットの肢体もあいまって、いかにも運動部ですと言わんばかりだ。


「――いや女ァ! なんで女がここにいんだよ!」


 ここは男風呂だぞ馬鹿野郎が。それとも俺が間違っているのか? ンなはずはねえ、確かに男湯と書かれた暖簾をくぐった記憶がある。

 てことはこの女がおかしいのだ。俺はおかしくない。

 自分の正しさへの自信を深めた俺は、いまだマイペースにお湯に浸かったままのスポーツ少女(仮)を指差し糾弾する。


「おい誰だかしらねえがここは男湯だぞ。早く出ていけ」

「フッ……男湯とか女湯とか……些事じゃないっスか?」

「めちゃくちゃでけえよ」

「あーあ。先輩せっかくそんなにち◯ぽデカいんだからち◯ぽくらいの大らかな心を持って欲しいものっス」


 バカ、女の子が平気でちん◯とか言うな。

 俺は持ち込んでいた手ぬぐいでいそいそと股間を隠しながら、このスポーツ少女もとい変態銀髪を鋭く見据えた。


「お前誰だよ。いつ男湯に入った。ていうか何が目的で来やがった」

「良いでしょう、ひとつずつお答えするっス。うちは根鳥学園一年A組の美作みまさか鈴芽すずめ、ここには先輩と同じタイミングで来たっス」

「ガッコの後輩かよ……。で、目的は」

「フフ……全露闘……、ここまで言えばわかるっスよね?」


 わからないっスね。なんか美作は自信ありげに笑みを深めているが、全くピンとこない。

 俺が黙っていると、美作は困惑の表情を見せてからちょっと焦り始めた。ワタワタと手を振るからあんまり膨らんでない胸が見えそうになる。ちっさ。


「えっ嘘、今どき全露闘知らないとかマジっスか先輩」

「いや知らねえものは知らねえよ」


 正確に言うとちょっと聞き覚えはある気もするけど、多分クソほどどうでもいいところで耳にしたんだと思う。なんかもうどうでも良くなってきたから俺はもう一回湯船に浸かることにした。


「ぜ、全露闘は、全日本露天風呂混浴闘争委員会の略称っス。我々の目的は全日本の露天風呂や銭湯をすべて混浴にし、風呂内でのエロハプニングを誘発、そして我が国の少子化を食い止めることにあるっス!」

「最終目的に対してあまりにも迂遠!」

「うちは全露闘根鳥学園支部に所属してるっスが、本隊とは別行動でこの旅館に来たっス」


 もうちょっと他になんかやりようあるだろ。


「いやでも待てよ、全露闘ってテロリスト扱いされてなかったっけ?」

「フフフ……エロテロリストとして知れた存在っス」

「それはインリンの専売特許だろーが」


 全露闘、あまりにもくだらない存在すぎた。

 なんか美作への興味が一気に失せて、俺は隣に女子がいるということを頭の片隅で理解はしつつも、再びリラックスモードに移行するのであった。はぁーお湯気持ちええ。


「えっ、ちょ、年頃の女の子が隣にいるのに無反応って嘘っスよね先輩」

「あぁ? だって……なあ?」


 俺は美作の全身を眺めてから、視線を外して空を見上げた。晴れ渡る青空が露天風呂日和だ。


「なあってなんスか! 最後まで言ってほしいっスよ!」

「お前のひんそーな体つきを見ても別に……」

「だっ、誰がひんそーっスか! 少子化防止のためにうちとエロハプニング起こそうって、フツー思うっスよね!? ヤリチン先輩なら!!」

「あぁ!?」


 誰がヤリチンだコラ。思わぬ風評被害に声を荒げると、美作は「ひっ」と声をあげて涙目になった。

 え、うそ、ごめん。ちょっと脅すつもりだったけどそんなすぐに泣くなんて思わなくて……。


「あ、ま、まあ待てよ美作、泣くなって」

「べ、別に泣いてなんかないっス」

「あ、そう? いやまあそれならそれでいいんだけどよ、俺ってこんな見た目と名前だけど清い男女交際を心がけてんだわ。だからエロハプニングとか正直興味なくてよ」

「そ、そんな……世のメス垂涎ものの肉体とちんちんを持っているのに心は清いんスか……」


 何が悪いんだよ。言ってみろ。


「で、でも、ここでうちとエロハプ起こしてもらわないと、うち、全露闘失格っス」

「なあ美作、そんな頭おかしい団体失格の方がいいって」

「この国の未来がかかってるっスよ!?」

「じゃあおじさんとエロハプするかい、お嬢ちゃん」

「「!?」」


 新キャラのインターセプト。突然聞こえてきた声に美作と二人して振り向くと、俺らから少し離れたところにひとりのおっさんがいた。肥満体で、ギャランドゥがなかなかのジャングル状態。まるでエロ漫画から飛び出てきた竿役かのような外見だ。


「それだけご高説たれるなら……おじさんとエロハプニング起こせるよね、お嬢ちゃん」

「――ひっ」


 湯船を掻き分けこちらににじりよる竿役のおっさん。その見た目のインパクトに、美作は既に戦意喪失状態だ。こいつマジでなんで男湯来たんだよ。

 俺はため息をひとつ吐いて、子鹿のように怯えて震える美作と竿役のおっさんの間に壁になるよう立ち塞がった。


「おっさん、すまねえ。こいつどうもアホみたいだから、何も考えずに男湯に来ちまったみたいなんだ。ここは見逃してやってくれねえか」

「でも彼女、全露闘なんだよね? エロハプニングが目的で男湯に来たんだろう?」

「まあホラ、若気の至りってやつでさ。たぶんおっさんみたいな男臭さ溢れる男とのエロハプは想定してなかったんだよ……」


 なんのフォローをしてるんだ俺は。


「そうなのかいお嬢ちゃん」

「……っ、そ、そうっス」

「甘ったれるんじゃねえぞこのクソメス!!!」

「おっさん!?」

「全露闘はそんな軽い気持ちで入っていい集団じゃねえんだ! 入ったが最後、死ぬまで抜け出せねえカルトも同然なんだぞ! それを若いうちから何を血迷ってやがるんだ、若い嬢ちゃんが!!」


 え、なに、急に社会派の話はじまった?


「今からでも遅くねえからそんなクソ集団抜けちまいな……。おじさんの嫁みたいにどっぷり浸かったら最後、抜け出せなくなっちまうからよ……」

「お、おっさん……!?」


 まさかこの人、嫁が全露闘に入ったが故に実質NTRイベントが起こってしまった被害者なのか!?

 

「俺は嫁がNTRれた悲しみを癒すため全露闘と陰ながらエロハプを起こし、この見た目で涙声をあげ続けさせてきた復讐者……。だが、まだ若いお嬢ちゃんを泣かせる趣味はねえよ……」

「おじさん……」

「フッ……柄にもなく喋っちまったな。それに、エロハプも起こせじまいだ」


 ニヒルに笑って見せるおっさんに、俺は復讐者の悲しみと美作とエロハプ起こしたかったなあ、という隠しきれない性欲を見た。


「よく彼女を守ってやったな、にいちゃん」

「いや彼女じゃないっす」

「え、そうなの?」

「そうっす」

「じゃあにいちゃんのガタイにビビっておじさんバカじゃない?」


 それを口に出す方がバカじゃない?


「……」

「……じゃあ俺、風呂上がるんで。ほら出るぞ美作」

「あ、は、はいっス」


 なんともいえない空気が流れたけど、とりあえず俺は美作と一緒に風呂を上がることにした。

 あと、美作の裸体を真正面から見ることになったけど、一ミリもチンピクしなかった。

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