第23章 再会して再確認
古間は音羽のバイクで室橋の家にたどり着いた。音羽の警告通り運転は決して丁寧ではなく、配慮の感じられないものであった。
「古間さん、着きましたよ。」
音羽がエンジンを切り、古間に声をかける。ぐにゃぐにゃしてて、速いという初歩的な理由でジェットコースターに乗れない古間は終始、音羽にしがみつく形であったため、音羽に到着を告げられるまでその到着に気づくことはなかった。そして、室橋がすぐそこにいることにも。
「え?ああ・・・、ありがとう」
古間はバイクを降りる。
「雪乃さん。お待たせしました。バイクを自転車置き場に置いてきますね。」
「わかった。颯人、先に入ってましょ。」
「ああ、そうだな」
二人は並んで家の玄関へ歩き出す。
「随分密着してたね。音羽ちゃんと。」
室橋が古間の耳元で囁く。
「いや・・・あれはしょうがないだろ。」
古間は頬を赤らめながら焦ったように、それでいて必死に言い返す。
「ふふ、冗談よ。颯人ジェットコースター乗れないもんね。しょうがないしょうがない。」
「もー、勘弁してくれよ。」
「でも、ちょっと妬いちゃうなー。羨ましいなー、音羽ちゃん。」
「え?」
「私にはしてくれないの?密着。いや?」
「いやではないけど・・・ここで?」
「ダメ?」
「そういうわけじゃ・・・あーもう!わかったよ!」
古間は室橋を抱き寄せる。それに応えるように室橋も古間の背中に腕を回し最大限に密着する。
「なんか久々だね。この感じ。」
真っ赤な顔を隠すように室橋は古間の上半身に顔をうずめる。
「お前が言い出したんだろ?」
古間も室橋の肩に顔をうずめた状態で答える。
少しして、二人は抱き合ったまま顔を向け合う。言葉にせずとも通じ合うこの状態に身を任せ、互いに唇を近づける。互いの熱を感じ始める箇所が一つ増え、微かな吐息が加わる。そっと唇を交わし、さらに密着させる。
「おー、白昼堂々、ワイルドですね。」
二人は急激な体温の低下と心地よい夢から覚めるような感覚を感じるとともにテンポ遅れで、視線を声の方向へゆっくりと向ける。
「よくあるドラマではキスの直前に遮るように声をかけるのが定石ですが、私はあまり好きではありません。」
「お、音羽ちゃん!?いつから見てたの!?」
「古間さんの『お前が言い出したんだろ?』くらいからですかね。」
古間に似ても似つかない、やたらと低く演技臭いイケボで音羽は先程の古間のセリフを復唱する。
「結構ちゃんと見てるじゃない・・・」
気が抜けたように絶望する室橋。古間は、すっかり魂が抜けてしまったようであった。
古間の魂が身体に戻り、三人は室橋の家に入る。室橋と音羽は未だ放心状態の古間を部屋に座らせた後、飲み物とお菓子の準備をする。
「音羽ちゃん。見てたならもっと早く言ってよ。もー!思い出したらまた恥ずかしくなってきた。」
「びっくりしたのは私の方です。バイクを置いて戻ってみたらあんな状態が目に飛び込んできたのですから。」
恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆う室橋に対し音羽は淡々と言葉を返す。
「その割には冷静だったじゃない。」
「・・・たしかに、私の留学先ではハグは挨拶みたいなものですし、親密な間柄であれば同じような感覚でキスもします。そのせいで少し感覚が麻痺していたのかもしれません。」
「ってことは、たくさんしてるってこと?・・・キス・・・」
「特に親密な間柄の人はいないのでハグまでですね。」
「・・・そう」
少しばかり沈黙が流れる。室橋は気まずさで、音羽は淡々とした性格からの沈黙である。しばらくの沈黙の中、落ち着きを取り戻した室橋は再度口を開く。
「颯人とね、しばらくゆっくり顔を合わせてなくて。最近ね、忙しそうなの。何かに追われてるというか。ほら、颯人って真面目じゃん?たまに心配になるレベルで、自分のことより、人のために動くし。本音を言うと私だけを見てほしいけどね。せめて一番で在り続けてほしいな。なんてね。颯人には内緒よ。絶対気にしちゃうから。」
必死に間を繋ごうとする室橋の言葉に音羽はただ、無言で耳を傾ける。
「・・・雪乃さん。こっち向いてください。」
「え?何で?・・・ングッ!・・・シュークリーム!?」
「先程、冷蔵庫で見つけました。甘いのはスイーツだけで十分です。」
「いつの間に・・・本当に隙がないわね。」
室橋が口に加えたシュークリームを手に持ち直す。
カチッ
電気ケトルが、お湯が沸いたことを告げる。音羽は人数分のインスタントコーヒーを入れ、お盆に乗せる。
「私は、恋愛のことはよくわかりません。ピアノばかりやってきた人生でしたから。ただ・・・」
言葉に詰まった音羽は室橋の手から食べかけのシュークリームを取り上げ、一口で頬張る。
「音羽ちゃん!?それ私の食べかけ・・・」
「私だって、少女漫画の1つや2つくらい読んだことあります。それに私は2人から本当にたくさんのものをもらいました。2人には、いや、2人だから素直に応援できるんです。ずっと近くで見てきたんです。絶対に幸せになってください。」
「ちょっと音羽ちゃん、急にどうしたの?」
「言いたいことを言っただけです。では、これ持っていきますね。」
コーヒーを入れたお盆をリビングへと運ぶ
「(まったく、中田さんが羨ましがるわけです。)」
音羽はリビングに入る。
「雪乃さん、古間さん爆睡です(気づいてましたけど)」
「えー、もう、しょうがないわね。」
室橋が、古間にブランケットをかける。室橋と音羽もしばらく、ボードゲームをしていたものの、エアコンの聞いた部屋で、眠りに落ちるのであった。
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