第9章 霧中にて手探り
日中に作業を終わらせ、夕方から調査を行う。
調査に全リソースを使いたいのが本心であるが、そうもいかない。
明日は、的場と研究に関する面談であり、そのための資料を作成しなければならなかったのである。
古間は、日が沈み古間以外誰もいなくなったゼミ室で、パソコンの画面を見つめる。
白神と中田、そして古間。その3人の共通項は昨年度まで共に活動した軽音楽サークルである。『軽音楽サークル』直観的に浮かんだキーワードを頼りに古間は大学のHP内の部活動・公認サークルの画面を開く。
北央大学公認サークル第72号
軽音楽サークル「North Center (ノース センター)」
創設者:室橋 雪乃(北央大学教育学部初等教育学科2年)
代表者:同上
顧問:北央大学学生支援課(代理)
発足初年度構成員:古間 颯人(北央大学教育学部中等教育学科2年)
音羽 琴美(北央大学芸術学部音楽学科2年)
白神 夕樹(北央大学農学部総合農業学科2年)
中田 未央(北央大学教育学部中等教育学科1年)
主な活動内容:学内イベントをはじめとした音楽活動
音楽を軸とした地域貢献活動
発足当初の資料である。創設者は室橋 雪乃。彼女も音楽を共にした仲間であり、古間の交際相手である。しかし、二人の関係は、サークルメンバーには秘密にしていた。それは、メンバー内はフェアな関係であることを望んだ室橋の要望であった。
古間と室橋の繋がりは1年次前期の必修外国語科目『実践英語A』、必修スポーツ科目「体育(硬式テニス)」などで一緒になり、その後、意気投合したことがきっかけである。後期に古間が初デートに誘い、帰り際に告白し今の関係に至る。
古間は、当時を懐かしむと共に当時のメンバー間の関係を整理する。
調査1日目
・俺と雪乃の関係はサークルメンバーは知らない。
・他のメンバーでそういった話も聞いたことがない。
・サークル内で歯車が狂ったとは考えにくい。
・田嶋周辺を調査するのが初動として最適である。
白神は田嶋を慕っていた。本人曰く、そのために北央大学に入学して来た。
だが、それは叶わなかった。おそらく起点はそこであると古間は直感した。
後を追うように中田の昏睡状態。因果関係は現時点では不明だが、前段階として、理科教育学分野の顔合わせ会の時には様子に違和感があった。
「中田は白神が好きだった?」
古間は脳をフル回転させる。点と点が繋がりそうで繋がらない。大きな障壁は昏睡状態である。仮にそうであったとして、それが叶わなかった…。昏睡状態には様々な原因があるだろう。だとしても、失恋でそこまでいくとは考えられない。
古間はひとまず中田の件と白神の件は分けて調査することにした。
しかし、確実に関連性がある。それだけは確信していた。
田嶋が農学部を去り、白神も研究室を失うことになった。その後、栄養学の研究室に入ったとまで古間は把握していた。白神から直接聞いたため間違いない。
しかし、その後しばらくして、白神と音信不通になったため、肝心の指導教員が分からない。
古間は、農学部のHPを開く。
教員紹介のページを開くと教員の名前と専門分野の一覧が表示させる。
初めて聞く分野ばかりである。とりあえず化学系だと思われる教員をメモする。
古間はまずは白神の動向を調べることにした。音信不通になって以降、白神のことは何も知らない。まずは、白神と連絡が取れるようにしたい。
古間はメモに書き加える。
調査1日目
・俺と雪乃の関係はサークルメンバーは知らない。
・他のメンバーでそういった話も聞いたことがない。
・サークル内で歯車が狂ったとは考えにくい。
・田嶋周辺を調査するのが初動として最適である。
・農学部(化学系)教員に白神について聞く
「古間くん、まだ残っていたのか。」
静まり返ったゼミ室に声が響く。古間は咄嗟にその聞きなれた声のする方向に顔を向ける。ゼミ室の入り口に的場が扉を半分開けて顔を覗かせている。
気付けば時計は21:00を指していた。古間は咄嗟に応答する。
「集中してました。すぐに帰ります。」
古間は、手早く帰り支度を始める。今日整理したメモを愛用の手帳型スマホカバーに忍ばせる。明日、行動を起こす。
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