第7章ー3 軽音楽サークル(本年度篇)

年が明け、3月。

4月で4年になる室橋・古間・音羽・白神は引退となる。

そして、中田も4人について行くように早期引退を決めた。

各々が引継ぎを済ませ、来年度から完全に新体制になるわけである。


中学理科の単元の一つに『音の性質』の単元がある。

それは、音は空気中に振動として進み我々の耳に届くというものである。その振動数と周波数の形で音の聞こえ方が違うため、聴覚を持つ生物は、それで音の聞き分けをしている。


近づく別れによるセンチメンタルな感情とただただ暇な現時点が入り混じる実に不思議な時期。久々の初期メンバーの集いに雑談が花を咲かせる。

内容は教育学部の学生が多いせいか、教科間の繋がりという小難しものであった。

しかし、目指す姿は違えど、音楽の道に進む音羽と中田は教科内容の繋がりを今になって実感し、その奥深さに感銘を受けていた。


「白神センパイも何かありますか?そういう雑学」

「えっ…いきなりだな…」

中田の突然のパスに若干困惑しながらも白神は何とか脳内の手頃な引き出しを探る。

「リトマス紙ってあるじゃん。それは、『リトマスゴケ』っている地衣類の色素のが使われてたんだ。今は、同じ特性を持つ人工物質が使われているらしいが、元はその地衣類が作り出す物質が使われてたんだ…たしか。」

「はへー…」

完全にフリーズした中田に白神は慌てて、ぶどうジュースを持ってくる。

「少々、難しすぎたかな…。まぁ、俺もうろ覚えだから…な!」

「白神の話、面白いと思った。」

音羽がフォローを入れる。

「私、ピアノしかしてこなかったから。みんなと会えて…よかった。」

涙ぐむ音羽に中田と白神が慌てて慰める。

暇だから楽しく雑談していたと思えば、突然寂しくなって涙ぐむ。

本当によく分からない季節である。

さらに、ぶどうジュースを差し出す白神。

ぶどうジュースを万能薬か何かと勘違いしているのだろうか?



新年度 4月


古間 颯人(ふるま はやと)。

北央大学 教育学部 中等教育学科 4年

  所属:理科授業学研究室(理科授業設計論専攻)

指導教員:的場 博司


基本的に生真面目な性格だがフットワークが軽く誰とでも仲良くなれる。

室橋雪乃と交際している。的場研究室の学生からは、的場に社交性を加えたような人物であると評価されている。


音羽 琴美(おとば ことみ)。

北央大学 芸術学部 音楽学科 4年

  所属:作曲系研究室(作曲専攻)

指導教員:西田 真由子(にしだ まゆこ)

  実績:国際的なピアノコンクールで多数の賞を受賞している。


幼少の頃からピアノに興味を抱き、今日に至るまでその天井の知らない才能を伸ばしてきた。

しかし、ピアノのみに打ち込んできたので、少々知識が狭く、サークルメンバーが自身の見える世界を広げてくれた。

口数は少なく常に冷静さを欠くことはない。かなりストイックな性格である。


室橋らの研究室生活が本格化すると共に、中田も所属希望研究室を決める時期が来た。

北央大学では、6月に所属研究室の希望を提出し、7月に確定する。


そして、4月下旬。白神が音信不通になった。

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