第7章ー1 軽音楽サークル(初年度篇)

北央大学公認部活・サークル棟(通称:サークル棟)。開学当初から存在する年季の入った3階建ての簡素なつくりの建物。大学から公認を受けた部活及びサークルは基本的にこの建物に部室を構え、活動拠点としている。


18:30。大学の講義が終わり、帰宅やバイト、部活動など学生たちが各々の生活へ帰還する。最も安らげる場所へ帰っていく。

サークル棟1階、廊下のつきあたりにある角部屋、夜になると真っ暗になる上に、隣は草木が生い茂る林の斜面であるため、8畳程度の広さがありながらも長らく使われてこなかった開かずの間。十数年ぶりにその部屋の鍵穴が回り、内部の空気が一新される。経年のホコリとカビとの混合された不快な臭いと微細な粒子が待ちわびたとばかりに解放者達を目掛けて集中砲火を仕掛ける。


「う…これは中々ね」

「臭い…聞いてた以上にひどいぞこれ」

「センパイ、これからここで活動するんですかー?」

「なーに言ってるの。掃除すれば何とかなるって!それに冷静に考えてみて!広さも設備も周りの環境も条件としては最適解よ!」

「うー、たしかに…」

「まぁ…虫とかがいないことが不幸中の幸いか。確かに広いし電気も一応通ってるみたいだ。エアコンは…こりゃ買い替えだな」

開放者の内の一人が近くのコンセントにスマホの充電器を繋げて通電の有無を確かめる。


時の流れと共に無視され、しまいには気付かれることすらなくなった隠れた優良物件が、新たなサークルの誕生の産声と共に復活の息吹をあげた。


北央大学公認サークル第72号

軽音楽サークル「North Center (ノース センター)」

創設者:室橋 雪乃(北央大学教育学部初等教育学科2年)

代表者:同上

 顧問:北央大学学生支援課(代理)

発足初年度構成員:古間 颯人(北央大学教育学部中等教育学科2年)

         音羽 琴美(北央大学芸術学部音楽学科2年)

         白神 夕樹(北央大学農学部総合農業学科2年)

         中田 未央(北央大学教育学部中等教育学科1年)

主な活動内容:学内イベントをはじめとした音楽活動

       音楽を軸とした地域貢献活動


「とりあえず、このエアコン…だったものは俺が外すわ。2人は他のとこ掃除してくれ。」

「じゃあ…未央ちゃん、一緒に掃き掃除でもしようか!」

「りょぴ!雪乃センパイ!」

「颯人、2人はいつ来るって?」

「白神は学生実験だから20:00まで終わらないんじゃないか?音羽はコンクールで遠征だから1週間は戻らないってよ!」

音羽 琴美(おとば ことみ)。北央大学芸術学部2年。ピアノの神童と呼ばれ続け、現在進行形でその才能を伸ばしてきた。学科は音楽学科で主席合格。他の追随を許さない実力故、友人は少なく、口数は少ないものの、サークルでの生活に密かに心を躍らせている。

「分かった!…メッセージグループも作らないとね」


20:03。太陽が完全に沈み、夜の帳が降りる。

「そろそろ終わりにするか…あとは備品が届いたら搬入作業だな」

「白神センパイにやってもらいましょうよー(笑)」

「おっ!名案(笑)」

「可哀そうよ…でも…ふふ(笑)…いいかもね」


ガチャッ!!


「ちょいちょいちょい!勘弁してくれよ~☆」

慌てたように、大雑把に扉が開き、色々な意味で熱気を帯びた人物が部屋に入る。

「おっ!出た!田嶋2号」

白神 夕樹(しろがみ ゆうき)北央大学農学部2年。底抜けに明るくお調子者であるが、周囲の気遣いもでき、頭も切れる。大抵のことは何でもこなすパワフル系の学生である。田嶋を予てより慕っており、田嶋の下で研究をするために北央大学へ進学した。

何の因果だろうか、性格面も田嶋と相性が良く2年次の段階で田嶋に認知され、気に入られている。

「初めて聞いたよ!そのあだ名!」

「でもよ、来年の後期、田嶋先生のとこ行くんだろ?」

「おうよ☆好きなんだ!あの先生」

「颯人は的場先生のとこだよね?未央ちゃんはどこか考えてたりする?」

「わたしはー、音楽教育かなー…音楽好きだし!」

「未央ちゃんギター上手だもんね!私は、児童文学が一番したいんだけど…まだ考え中かな」


それぞれの担当は、室橋:ベース,古間:ギター/ボーカル,音羽:キーボード,

白神:パーカッション,中田:ギター


始まりは、ありふれた小さなサークル。楽しい時間が最後まで続くと心から信じていた。

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