第4章 事態把握
中田 未央の昏睡から3日経ち、学生からの聞き取り調査も一段落した。
今回の調査該当者は中田を除く田嶋研究室の学生11名。田嶋が聞き取りをした後に的場の聞き取り、又はその逆という方式を取った。
正直、聞き取りを2人態勢にしたのは正解と言えるだろう。
田嶋は陽気で明るい性格であることに加え実績のある教員である。それ故に人気の研究室の一つであるが、10名を超える大所帯であるため、学生一人あたりの関わりはどうしても浅くなる。中には、信頼関係が築けていない学生もいるだろう。
また、天才肌であるが故、相談を受けることが少々苦手らしい。
一方、的場は学校現場での経験も含め、そういった点に秀でているため学生によっては、的場の方が話しやすさを感じることもあるだろう。
的場が、田嶋からの協力依頼を引き受けたのはそういった真意があった。
学生への質問内容として、①過去2週間の中田の動向②様子の変化③自身の心身の状況④その他である。
的場と田嶋は適当な空き部屋の利用予約を取り、聞き取り調査の共有を行うことにした。時間通りに的場と田嶋は予約した部屋で落ち合い、情報共有を行う。
すると、状況の詳細が見えてきた。
先ず、中田が昏睡状態に陥ったのは発見から3日前からであったこと。
たしかに、2週間も寝たきりであればただでは済まなかっただろう。
そして、前々回の的場の授業を欠席したのは、単純に寝坊によるものであったことが、田嶋研究室の同期からの証言で判明した。
また、中田が大学に来なくなったのは2週間前ではなく1週間半前である。
しかし、的場が休講にした週の動向が明らかになっていないのである。
そもそも、大学に来ていないのだから大学でしか会わない学生が動向を把握しているはずがない。今回の調査ではそれが限界であった。
「的場ちゃん…どうして中田が…」
「今回の調査ではこれが限界ですよ。あと、原因まで考えるとキリがない…所管外です。」
順風満帆な人生を送ってきた田嶋にとって複雑かつ理解不能な事態に完全に参ってしまっているようであった。
「とりあえず、今できることはしました。一段落としましょう。」
これ以上、何か出来るわけでもない。
不完全燃焼であることは間違いないが、中田が目覚めることを祈りつつ、
日常に戻ることにした。
田嶋と別れた後、再度、中田 未央の情報に目を通す。
中田 未央(なかた みお)
北央大学 教育学部 中等教育学科 3年
所属:科学実験・教材学研究室(生物教材学専攻)
指導教員:田嶋 亨
メモ
① 2週間前は変化なし(的場の授業の欠席は偶然の寝坊によるもの)
大学に来ていなかった理由は不明
1週間前の動向は不明(実質、音信不通)
② 特に変化はなかったが、研究の進捗はかなり遅れていた。
③ 体調の悪さは第三者目線では特になし
④ 明るい性格(所謂、ギャル)。悩んでいる様子はなし。
友人関係は良好であるが大学外で交流があるわけではない。
特に親しい友人や交際関係は不明(聞き出せなかった)。
田嶋と擦り合わせてこれである。想定以上の収穫のなさに的場は愕然とした。
中田の人物像に関しても的場が把握している域を出なかった。
しかし、それはある意味想定内でもあった。人数の多い研究室では学生との関係づくりが難航することも、ある程度は致し方ない。だからと言って田嶋を責めてはならない。
田嶋も田嶋でキャパオーバーであるわけである。
とは言え、つい先日まで気にしていなかった事態が、気付かぬうちにすぐそこまで接近している。的場は、自身の視野の狭さを反省することになった。
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