第2章 的場家

20:00。荷物をまとめ、ゼミ室に顔を出す。帰宅する前の決まった流れである。

時々、寝落ねおちしている学生が残っているからである。

急ぎの作業であれば飲み物や軽食けいしょくを差し入れ、そうでなければ帰らせる。

それは、研究室に寝泊ねとまりし、根詰こんつめ過ぎた結果、心身しんしんともにボロボロになった的場の苦い経験からである。

ゼミ室には誰もおらず、施錠せじょうもされていた。全員帰宅したようだ。


帰宅後、テーブルにラップをかけて置かれている夕食を電子レンジで温める。

的場の家族構成は妻と3人の娘の5人家族。妻は大学の時の後輩で1つ年下である。

娘は、長女が高校2年生、次女が中学3年生、末っ子が中学1年生である。

いずれも反抗期はんこうきらしい反抗期はなかったものの家庭内での権力けんりょくは言うまでもなく、

一番下である。「親父おやじと洗濯物は別にして」と言われないだけ幸福である。

結婚して5年目に思い切って戸建てを購入したおかげで個人のスペースは確保されている。

普段であれば娘たちの部屋に顔を出すのだが、テスト期間中らしく、緊急時以外立ち入り禁止とのこと。


部屋でくつろぐ妻に帰宅を告げ、娘たちにはドア越しに帰宅を告げる。

美味しい夕食の後は、皿洗いをし、風呂に入る。

的場家の家事は完全分担制である。朝の家事は妻が、夜の家事は的場が担っている。

例外としては、夜の家事については最後の者が担うことになっている。

大抵、最後に帰宅をするのは的場であるため、自然と家事の分担が成立したわけである。


湯船に浸かりながら流行りの眠りについて思考を巡らせる。

娘たちの学校ではどうなのだろうか。テストが終わった時にでも聞いてみようなんて思いながら。入浴と着替えを済ませる。テーブルにノートパソコンを開き、学生から提出されたレポート課題の採点を行う。


(着信音♬)


推しのVtuberのオリジナル曲が電話がきたことを告げる。

北央大学教育学部の田嶋 亨からであった。


レポート採点を切り上げ、妻との会話を楽しもうとした矢先での職場の人間からの着信。

気乗きのりはしないが、的場は電話に出ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る