第1章 流行りの眠り

紙類の山が片付き少しばかり広くなった部屋でつかの休息を楽しむ。

時刻は12:00を過ぎようとしている。

ラジオを付けていた頃は時報じほうが鳴っており、むしろそのためにラジオを流していたわけである。が、先程さきほど、星になってしまった。

情報収集はもっぱらインターネットやニュースアプリである。

的場はボサボサに伸び切った天然パーマの髪を手櫛てぐしで簡単に整え、愛妻弁当あいさいべんとうをもってゼミ室へ向かう。

学生と昼食を取ることも的場研究室恒例の日課にっかである。


的場研究室の所属学生は5名。全員学部生である。北央大学教育学部では学部3年次の後期に研究室へ所属し、半年かけてテーマ設定や研究計画などの準備を行い、1年かけて研究と卒業論文そつぎょうろんぶん執筆しっぴつに取り組む。他大学でも見られるよくある流れを採用している。

所属学生の内訳うちわけは4年生が3人,3年生が2人である。決して人気のある研究室ではないが、安定的に学生が希望してくれ、なんだかんだ丁度良い人数を維持している。


学生たちの話題は、今年に入り全国的に猛威もういふるっている(?)

原因不明の昏睡状態こんすいじょうたいのことであった。学生曰いわく病気ではないため「症状」という表現は用いられてないとのこと。的場も昏睡状態におちいる人が増えているということは知っていたが、特に興味がなかったため深く調べるなどはしなかった。

先程、ラジオニュースでも取り上げられていたような気がする。事態は的場の認識よりも大きく、深刻なようであった。


16:30。午後の講義を終え、会議室に向かう。臨時りんじ教授会きょうじゅかいが入ったわけである。

とは言え、特に役職やくしょくについていない的場にとって、臨時の教授会は所謂いわゆる「置き物」状態である。配布資料に目を通すと、例の「流行りの眠り」についての議題であった。

どうやら、大学内でも学生を中心にその脅威きょういは拡大しているようであった。

大学としてどのように対応すべきかという議論であったが、驚くほど進まなかった。

感染症どころか病気ですらないためオンライン授業に切り替える訳にもいかず、原因も不明なため予防を呼びかけることも出来ない。下手なことを言えないせいか、医学部の教員も全く口を開かない始末しまつである。北央大学は一応総合大学であるため幅広い専門家が揃っているはずであるが、トラブルが起こった時の小学校の学級会レベルで誰も何も言わなかった。


結局、学生とコミュニケーションを密にとり注意深く様子をるという結論に落ち着いた。

「何の時間だったのか?」という聞いてはいけない疑問が的場の中に残った。

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