枕に包まれて眠れたら

柑月渚乃

枕に包まれて眠れたら

 私は私の人生を愛すことができない気がする。


 どうしたって日々後悔や不安ばかりの人生だし、上手くいったことよりも上手くいかなったことのほうが記憶に深く残り続ける。

 時折、自由な時間を邪魔するように嫌な記憶がフラッシュバックすることもある。


 そもそも、私はつまらない展開ばかりの物語を好きになれない。

 物語を愛する私は物語を愛するがゆえに、本当は好きじゃない物語を好きと言うことが我慢ならない。

 私は、私の人生という物語がどうしても好きになれない。


 でも、なら。ならせめて、生活を愛せるようになりたい。


 窓から入ってくる朝日で起きる瞬間や、シャワーを浴びた後ドライヤーで髪を乾かすのとか、フライパンで目玉焼きを作ったり、「もうこんな時間だ!」って気付いて急いで靴を履いたりだとか。


 そういう生活の一つ一つを、私は、愛せるようになりたい。


 幸せってそういうことなのかなって思ったりもする。


 幸せとは愛する人がいることだってよく言われる。皆んなが言うってことはきっと正しいのだろう。

 でも、それはなんか嫌だ。本当に、本当にそうなんだとしたら、そんなのハードルが高すぎるよ。


 幸せはもっと身近でささいなことであってほしいって思ったりする。

 幸せは性欲や本能に邪魔されることのない正真正銘純粋なものであるべきなはずだって思ったりする。


 私は人生の主人公になることが多分できない。

 だからせめて純粋に、生活の一つ一つを愛したい。


 もし得意料理だったはずのオムレツを焦がしてしまっても。

 寒くなってきてからようやく衣替えの準備を始めても。

 財布の中からくしゃくしゃになった千円札が出てきても。

 

 その一つ一つを愛せたなら。

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