無駄な労力に関する無駄話
愛謝が事務所に入ってきて、柚里が椅子に座ったまま振り向く。
「あ、おかえりなさーい。遅かったですねえ。あれ?なんにも買ってこなかったんですか?」
「いや~マジスーパー混んでてさあ。並ぶの嫌だから途中で帰って着ちゃった」
「ここら辺スーパーなんかありましたっけ?」
「近所のパチンコ屋がスーパーになっててさ、広くって涼しくって一時間くらいうろうろしてたんだ。」
「それで結局なんにも買わないで出てきちゃったんですか?冷やかしじゃないですか」
「冷やかしじゃないよお。冷やしてるのは自分のカ・ラ・ダ」
自分の身体の前で腕を交差させ、左右に身体を揺らす愛謝。
「冷やかしといえばさあ。ああ言うお客も冷やかしと言えるのかな?」
「なにがですか?」
「スーパーのセルフレジでさ、「〇〇払い出来ないんですか?〇〇払い出来ないんですか?」ってずっと大声で聞いてる人がいて、それって画面に表示されてるよね?なんでいちいち大声出して叫んでるんだろってびっくりした。結局普通のレジに立ってる人が目の前のお客様に謝ってその叫んでる人のところに走って行ってたけど、自分で画面触んないで全部やらせてんの。それでまたそういう人が来て、店員の人が「画面の表記を見てください」って言ったら見もしないで「じゃあ全部キャンセルで」って言って出てっちゃったの。それでまた、一回店員が目の前のレジとめて、そっちのレジの処理をしててさ。ただでさへ混んでるのに」
「ああ、私もレンタル屋さんで見ました。レジの受付の人が電話しながら目の前の会計もしてて、それで横のセルフレジを使っていた他のお客さんが「取り消したいんですけどお」って店員さんに叫んでました。私後ろにいたんで、後ろから「取り消しは取り消しを押すと最初の画面に戻りますよ」って教えて上げました。」
「えらいえらい」
ほくそ笑む柚里。
「でもセルフレジってお店によって違い過ぎて分かりずらいですよねえ」
「それでも日本語表記なんだから、取り合えず触った動かして欲しいよね。爆発する訳じゃないんだからさ。スマホも説明書読むよりまず触るでしょ」
「まあ、セルフレジなのにセルフになってない状態は良くありますよね」
「寧ろ、待機してる人間が三人分働くことになってない?セルフレジ入って給料は上がってないのにやることは増えてるよ。発展するのもそうそう良いことじゃないね」
「それが今の世の中の現状だよね。働く人は少ないのに、やることは増えてるよね」
「またその鬱憤が、どっか明後日の方向に向くんですよね」
「だいたいのクレームの正体ってそれだよね」
「私も声優の仕事入らなくて、ここで受付として雇ってもらうまではスーパーで働いていましたから、なんとなく想像はつきます。そういうめんどくさいこと多いと、鬱憤が新人に行って、結局新しい人育つ前に長くいた人がやめちゃうし‥‥‥」
柚里が頭の右側を机につける。思い出し落ち込みをしている。
「それで、お給料上がんないのにいる人の仕事が増えるんだよねえ。マジでワーキングプア―だわ」
「でも、お店だけじゃないですよね?」
「ん?なにが?」
「うちも冷やかしっぽい電話ありますし、それにネットが普及してやること増えてますよね」
「あはははははははははははははは!」
ばんばん机を叩く愛謝。
「先輩私そんなに面白いこと言いました?」
「いや、悲しすぎて笑うしかなかった」
「まじ、アフレコ現場の緊張感から帰ってきた声優に、今度深夜二時間ユーチューブ出てとか、私だって本とは言いたくないし」
「たーくんさん、このまえ、アイドルアニメと、バトルアニメと恋愛アニメのユーチューブ配信で自分のキャラにほぼ同じことコメントしてませんでした?」
「本人から聞いてないから分かんないけど、なにも言わなければそういうことはなかったことになるから大丈夫」
「まあ声優さんが演じるキャラって作品が違ってもどっか同じ要素がありますからね」
「う~ん、う~ん。ノーコメントで」
「先輩つらそ」
「ていうかさ、スケジュール確認待ちにかかってくる保健のセールスとか、マジめんどくさいよねえ?」
「話しを無理やりずらしましたね」
「違うよ話しを戻したんだよん。冷やかしについて話してたじゃん?」
「声優事務所ってわかってて変なセールスくるよね。電話が繋がるからって暇だと思ってんのかな?」
「受け付けて暇に思われがちですよねえ」
「こっちも客商売だから下手に悪い印象与えられないのわかっててやってるよねえ」
「保険とかのセールス電話って、一日何本電話かけるってノルマがあるんでしょうね。それでちゃんと電話が繋がったかどうかも記録するんです」
「まあ、ここは事務所ですから? 出ないわけにはいきませんが? あなたがたのノルマのために、限られた電話回線埋められるのマジ迷惑なんで。こちとら普段から所属してる声優やスタッフやお取引様の対応のために働いてるんで、いい加減かけてくるのやめてくださいって、こんどセールスかかってきたら言って良いかな?そしたらもうそのセールス来なくさせる自信あるよ私」
「ダメですね。先輩が良くてもだダメですね。上がマジでめんどくさかったから全然いいよ。やったったって!って親指を天に立てても私が先輩を心配するので止めます」
「ゆ、ゆ、ゆ譲里はあ、なんて良い子なんだあ」
両手を顔に当て、天井を見上げて大袈裟に無きマネをする愛謝。
るるるるるるるるるるるるるるる。
愛謝が電話を取る。ガチャ。
「はい!愛あるボイス届けます!音質一期声優事務所です! え? 番台さん? すいませんうちお風呂は間に合っています。 あゲーム会社様ですか! 大変失礼いたしました!」
「先輩の電話が一番冷やかしっぽい気がする‥‥‥」
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