愛あるボイス届けます!音質一期声優事務所!

@hitujinonamida

こんな声優事務所で良いのか?

 るるるるるるるるるるるるるるる。

 机の上の電話が鳴る。


「はい!愛あるボイス届けます!『音質一期声優事務所です』!え?真っ裸ですって?ちょっとあの~、電話口で言われても見れないので。‥‥‥あ、会社名が『MAPPADA』さんですか!あ~すいません!そっち系のセールスかと思って、ちょっとイラっとしました!あははは。はいはい。ええええ。うちの看板声優を根こそぎ使って頂いてありがとうございました。はいはいスケジュールですね。お伝えした通りになっております。もし変更が必要でしたら、声優陣と直接ライン交換してください」


 ガチャ。電話が切れる。



「ああああ、愛謝(あいしゃ)先輩大丈夫なんですか?」

「なにがあ?」

「ちょっと‥‥‥ていうかかなり横柄じゃありませんでしたか?」

「あ~良いの良いの。そういうプレイが好きな人いるし、あの事務所ちょっとめんどくさい受付いるって思ってもらえば、下手なこと出来ないって思ってもらえるでしょ」

「え~知りませんよお、怒られても」

「ていうか、何で『MAPPADA』とか『マッドサイエンティスト』とか社名に自分の性癖をつけたがるんですかねえ。特に杉並区のアニメ制作会社は」

「まあ、絵師にスケベじゃない人はいませんからね」

「んふふふふ譲里(ゆずり)がそう言ってたって、こんど社長に言ってやろ」

「やだー!やめてくださいー!」

「お!今度のオーディションでそういう感じで身を捩ればきっと役掴めるぞ」

 譲里は、目を細めて横目て愛謝を見た。

「こらこらこら、なんだ先輩に対してその目は」

「いえ、私はこの目しか持ってないんでえ」


るるるるるるるるるる


 愛謝がまた電話を取る。

「はい、あーはいはい。クローバーワーカーさんですね!はい!はい!『白紳士』十年越しにアニメ化していただいてありがとうございます!もううちの声優で良ければいくらでも割引致しますので! ガヤもAからZまでじゃんじゃん使ってやってくださいね!」

 

 思わずイスから立ち上がる譲里。


「ちょっと先輩先輩!」

 譲里が後ろから愛謝の両肩を掴み、小さい声で訴える。

 愛謝は気にせず話し続ける。

「はい!はい!はい!スケジュール全部OKです公休でも行かせますので!」


 ガチャ。電話が切れる。



 「愛謝先輩!ないしてるんですか!現役声優たちにこっぴどく怒られますよ!」


「大丈夫大丈夫!老店とはずぶずぶに仲良くするの当たり前だから!その勢いで新人の顔売り込んでやるから!がやに6人くらい詰め込めば、何人か監督の癖に当たるのいるでしょ。」

「先輩の大丈夫が全然大丈夫に聞こえません!」

「じゃあなんに聞こえるの?日本語以外?」

「そういう意味じゃありません!」

「譲里ちゃんも入れるように、私押しに押しまくるからね!」

「‥‥お気持ちは有り難いですが、本当に今の対応で良いんですかあ?」

「大丈夫大丈夫怒られるのは誰でもなくて私だからさ!怒られる限りで、相手の癖をつきまくるから!」

「え~、もう癖ってなんですかあ」

「いやいやアニメっていうものはね、個性派ぞろいのどうしようもないこだわりの『癖』で出来てるから、どうしようもない癖からきたこだわりで生まれたのがアニメだから大丈夫大丈夫。こだわりの濁ってどうしようもない塊になったものが『癖』だから、だからアニメは日本で発展したんだろうね、こだわり強い人多いし!」


「‥‥‥だからお互いのこだわりでぶつかり合わないように、もっと穏便に対応すべきなんじゃないですか?」


 譲里は先ほどより低い声で話していた。

 愛謝が間を取って溜息を着く。


「でもさ、遠慮ばっかしてたら、まじりあうところもすれ違いで終わっちゃって、引き出し合えるハズの力も不発で終わっちゃうよね。炎上爆発する覚悟のあるやつじゃないと、覚悟のない奴に仕事は任せらんないよ。あ、でも不倫とか脱税とかそういう炎上はさせないでね?」

「しませんよ。そんな迷惑なこと。ていうか、私なんかじゃ不倫しても脱税してもニュースにもならないかも知れません。周りの方に比べたら、私は有象無象そのものですから」

「そっかあ‥‥‥じゃあ今日は譲里ちゃんが『有象さん』でアタシが『無象さん』ね」


「‥‥‥ふっははぁ」

 譲里は、目を点にして笑うしかなかった。

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