オーダーメイド

椋鳥

完璧

「いい」素晴らしい出来になったと僕は思う。暗い部屋に差し込む一筋の光が如く、その冥途服には奇跡が宿っていた。ほんのりと光沢を放つ暗い布が奥ゆかしさを放ち、その上を透明さが駆け巡る。


 世界は、残酷で美しくて、それでいて儚い。僕がこれに至るのも無理もないことだった。それくらいに、この服は良い。素材は竜を丸々一体使用し、その他の素材は一切使わなかった。いや、使えなかったといった方が正しいかもしれない。


 其の名は、”蟻の小竜”。この世において知る人ぞ知る、隠された魔物。数多の冒険者が、世に蔓延る様々な魔物を倒していく中で、其れだけが冒険者に知られることが無く、生き続けていた。それもそのはず、其れが居るのは辺境の地下遺跡の下層の隠し部屋下の金庫の……という訳だったからだ。


 例えるなら、写し鏡だろう。其れは自分に与えられた権能を最大限生かすことで、その歪な空間を作り出すことに成功した。”蟻の巣”とのちに呼ばれるその権能は、当初地下に潜るだけの単純な能力だと考えられていたが、其れの使い方は異常だった。


「蟻の巣」この一言を現在、過去、未来に反映させる事で概念的に地下に潜ったのだ。大げさに言えば、世界ですらそれを認識できなくなるということだ。また、副次的な能力として、潜っていた時間によって基礎能力値が上がる。というものがあるが、これは効果が軽微すぎて、其れ以外で能力の発動を観測できた個体が居ない。


 これらから其れは、長きに渡っての生存に成功した。それを討伐するのに多大な労力がかかるのは、火を見るよりも明らかだろう。存在すら怪しい其れを倒すということは、見えないものを斬るよりも遥かに難しい。地下に潜っていた時間、推定五百と数年の間に其れはひたすらに力を蓄え続け、生き残るために策を練ってきた。


 だが、それはいとも呆気なく倒された。討伐に成功したのは”青の簪”という冒険者達だ。五人組の編成で、均衡のとれた組み合わせだったのを覚えている。とても其れを倒せるほどの実力があるようには見えないのが、気にかかっているが。


 



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オーダーメイド 椋鳥 @0054

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