練習問題9 方向性や癖をつけて語る:問3-①

 一輪挿しには、雲母と銀線で造った花が飾られていた。火山帯にほど近い、鉱山と一体になったこの都市では本物のコスモスの花は希少だ。同じ大きさのダイヤモンドよりも、ずっと。

 床も、壁も、天井も、全てが石造りの部屋だった。部屋のいずれの部位にもそれぞれ用途にかなった別々の石材を用いてあったから、色や質感に変化があって決して退屈な印象はなかった。一方で、石と石とは髪の毛一本ほどの隙間もなく緻密に組み上げられている。床は卵の殻のようになめらかで、のみの跡もわからぬ程。天井はといえば天然洞窟風のいささか歪なアーチを描いて、鍾乳石の代わりに大小のランプ達が吊り下げられていた。

 寝台に掛けられた綿のキルトは、山の外から来た行商から買い求めたものだ。野の獣と草花の意匠が縫いこまれ、のどかな図案と色合いをしている。飾り棚にはいくらかの宝石飾りと、多数の化粧品がごたまぜに置かれていた――艶出し用のオイル、何種類もの染粉、髭や髪を編んだり捻ったりする時に用いる蜜蝋に留め具たち等など。

 壁に作りつけのデスクにはガラスペンと羊皮紙が出しっぱなしになっている。羊皮紙にはすみれ色のインクで書きかけた文字が並んでいたが、そのどれもが途中で乱雑に線を重ねて消されていた。飾り気のない言葉ではあったが、どうやら、詫び状のつもりであるらしかった。けれども最初こそそれらしく始まる文面は、次第に宛てた人物への怒りが噴出することでしおらしさを失ってしまっている。その直後に、書き手は自らのしくじりに気付くらしかった。

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