練習問題7 視点(POV):問3

 やかましい連中がやって来た。年老いた黒猫はうんざりして耳を伏せる。


 帽子を被ったものが腰を浮かせ、へつらうように瓶を持ち上げた。金の短い毛並みをした一人は野良よろしくパンをかすめとった。抜かりなく振る舞う最後の者は、不意に周囲をぐるりと見回した。振り向きざまに見えた目元には勇敢さの証であろう大きな傷がある。その視線は黒猫をさしたる感慨もなく舐めていき、再び卓上に戻される。


 人間どもは「酒」とかいう毒水を飲みだした。帽子が大傷に囃し立られ、ぐいぐいと杯を煽る。金髪はそれを、犬のように分別くさって押しとどめようとしている。黒猫は窓辺の揺り椅子から飛び降りて暗がりへ退散した。そこでは彼の同居人が、あかあかと燃える火の前で忙しく立ち働いて蛙の肉を焙っていた。


 窓の外ではぼうぼうと大蛙が鳴きかわしている。魔女が湿地に分け入って彼らの仲間をあれだけ捕らえていたというのに意に介してもいない様子だった。あの晩は黒猫も手伝ってやって、正当な報酬として何匹かせしめたものだ。黒猫が舌なめずりしている間に魔女はひと仕事し終えたらしく、大皿を抱えて隣室へ戻るところだった。


 黒猫は魔女の足元にまつわりつきながら、再び宴席の場へ戻ってきた。彼の揺り椅子へ戻る間に、人間たちは串焼き肉を食べ始めていた。お客たち、特に帽子と金髪が魔女へ話しかけている。けれど彼女は口元を釣り上げるばかりで、肉の出どころを明かす気はないようだった。


 大傷に目をやれば、肩を細かく揺らしている。そして不意に振り向いて、黒猫へ意味ありげに目くばせする。黒猫は我関せずと欠伸し、身体を丸めて寝なおすことにした。


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