練習問題7 視点(POV):問2

 魔女の庵の古びた長机は、今やすっかり様相を変えていた。卓上を埋め尽くす器具や書物は片づけられ、今は様々な保存食を並べた皿や鉢やらがひしめき合っている。魔女の手であっという間に整えられた宴席を冒険者たちが囲んでいた。傭兵、星読み、聖騎士の三名である。


 星読みが酒瓶を手に取ると、許可を得もせずに空の杯に手当たり次第に酒を注いで回りだす。聖騎士は真っ先に籠に山積みのパンに手を伸ばした。傭兵はそんな二人を余所に、魔女の庵をぐるりと見渡した。造り付けの棚には様々な生薬が収められ、書棚には書物がぎっしり並んでいた。絹や革で装丁されたものもあれば、塵に還りそうな程に古びた紙束も見うけられる。珍品でごった返す室内は煤も埃もきれいに払われている。傭兵は感心した様子で酒杯を煽った。


 その頃、魔女は台所に居た。肉からしたたる脂が熾火を受けててらてらと光る。魔女は焼き上がった肉の串を順に取り、小脇に抱えた大皿へ盛りつけていった。隣室の騒ぎが不意に途切れた拍子に、戸外からぼうぼうと鳴きかわす声が届く。湿地帯の大蛙達のものだ。彼らの同胞のうちいくらかは今まさに魔女のかまどでこんがりと焙られたところだ。魔女は再び視線を手料理へ戻すと、大皿に両手を添えて一息に持ち上げた。


 魔女が大皿を携えて宴席に戻ると、冒険者たちの視線は彼女の手元に吸い寄せられた。食器で満載の卓上へ魔女は半ば強引に皿をねじ込む。途端、冒険者一行は歓声をあげて串焼き肉に手を伸ばした。


 聖騎士が味を誉めそやし、星読みが感心混じりの調子で何の生き物の肉か訪ねる。魔女はどちらの言葉も謎めいた笑みではぐらかした。その様子を眺めていた傭兵は含み笑いし、上手いこと味付けされた蛙の腿肉をみしりと噛み締めた。

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