練習問題7 視点(POV):問1-②

―私の有用性は軽んじられている。


 愛想よく酒を注いで回りながら、星読みは思った。


 天文学は産まれたての学問である。望遠鏡のレンズを手ずから研磨し、星々の配置から宇宙の有様を探り、観測に適した土地を自らの足で探しもする。その営みの全てが崇高な研究に繋がるからこそ、星読みはあらゆる辛苦に立ち向かう気概であった。しかし市井の者はしばしば占星術と研究の区別をつけず一緒くたに扱っていた。星読みにとって占星術師は天敵であるから、これは全く不本意なことであった。


 星読みは蕪の酢漬けをかじり、同行者たちを見るともなく見る。傭兵は周囲をねめつけ、聖騎士は籠からパンを取っている。気の良い連中であったが、探索地の下調べから燃焼材の調合までこなす星読みへ「お前の妖術は役に立つ」とねぎらう手合いでもある。思い返す内に再び頭にきた。聖騎士の静止を聞き流しながら、星読みは杯を煽り、思い出しついでの憤りごと酒を飲み下した。香辛料で香りづけされた葡萄酒が腹の底でかっと熱を持つ。


 傭兵が囃し立てるままに三杯目の酒を干していると、星読みが言うところの『いんちきまじないの体現者』が大皿を抱えてやってきた。すなわち、泥地の魔女だ。とはいえ彼女は此度の依頼者であり、そのうえ料理の腕は確かだ。喧嘩を吹っ掛けるのも大人げないと思い直した星読みは、嫣然と微笑む魔女の勧めに従い今しがた供された肉料理へ手を伸ばした。


 香ばしい肉を口にすると、味わいは上等な野禽のようだった。聖騎士がまこと結構なお味でと世辞を言う。同様に感嘆した星読みは、魔女にどんな獣の肉か訪ねてみた。ホロホロ鳥か、それとも珍種の兎であろうか。魔女は誰の言葉に対しても謎めいた笑みを浮かべるばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る