練習問題5 簡潔性

 配膳と皿洗いが、居候の大姪の役割だった。この家にやって来た夜、鶏肉のローズマリー焼きに似合いのリネン類をしゅう子が手に取ると、『アヤノ大叔母さま』はこの調子でお願いね、と言ったのだ。以来、そういう事になっている。


 その日の朝食の席でも、アヤノは化粧を済ませ、ツーピーススーツを着込んでいた。差し向かいには、顔を洗ったきりのしゅう子がいた。二人の女は揃いの椅子に腰かけ、朝日の下で相対している。


 アヤノが手を組むと、指輪が触れ合って音を立てた。ダイヤ、翡翠、その他しゅう子にとっては謎めいた色石たちが老女の指で乱反射する。


 アヤノが食前の祈りを捧げたのを見計らい、しゅう子はスプーンを手に取る。


 しゅう子は無神論者だ。そして、信仰心という代物に関心を抱いている。けれどもこの家でその件は持ち出すことは辞めている。これは、しゅう子の母の意向だ。アヤノは昨秋に連れ合いを亡くし、結果、財産は彼女が手にした。母は娘を名古屋に送り出すにあたり『おばちゃまに出過ぎた口を叩くな』と厳命している。


 しゅう子は無関心と寛容の違いについて考え込みながら、ヨーグルトを口に運ぶ。アヤノ大叔母はフレンチトーストを断ち割って噛り付いていた。食欲旺盛な八十歳だ。それが長寿の秘訣だろうか? しゅう子の関心事が増える。


 しゅう子がテーブルを拭いていると、花園とスパイスの香りがたなびいていった。洗面所へ向かうアヤノの背中を見送り、しゅう子は壁掛け時計を見上げる。水音が止んで53秒後、足音は玄関へ向かう。木曜は講義があるためだ。しゅう子は残されたカップとソーサーを流しに運んだ。

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