【短編】二人だけでは済んでいないかもしれない

直三二郭

二人だけでは済んでいないかもしれない

 申し訳ない、待たせてしまって。あそこまで飲んだのは久しぶりなもので。

 ああ、完全にじゃあないけど、あなたの事は覚えているよ。結局あなたに全部支払て貰ったんだ、あの事を話すを止めるのはしないつもりだ。

 私の『少し不思議』な話をちゃんと喋るよ。

 少し飲み過ぎるとね、どういう訳か私はあの事を話したがるんだよ。

 心残りというのかな、あるいは私のトラウマかもしれない。精神の方にも行ってみたんだけど、何をどうとは言われなかったよ。

 当たり前か、言ってみれば私は酒を飲んだら同じ事を話すだけなのだから。

 昔の事で心に傷を負ったとも考えたが、専門が私を見たら違うらしい。

 今まで言った人達からは、何かの勘違いか私が忘れているか、あるいは私が作った作り話と言われて、誰も信じてはくれなくれなかったよ。

 でも、私が作った話じゃないし、勘違いでも忘れているとも思っていない。

 あれは確かに本当の事だと思っているんだ。

 どうしてもこの事を考えると興奮してしまいそうになり、だからつい酒が増え過ぎてしまう。いけないとわかっていて最近は抑えられたんだが、昨日は違ったらしい。

 こういうのもなんだが、あの事を『少し不思議』な話で済まされてしまったせいだと思う。知らなかったとはいえ、そう考えたらあなたにも責任の一端があるかもしれないな。

 冗談だよ、ただ今はこの話をしらふでしたいから、今日にしてもらったんだ。

 それにあなたはからかう様子ではなく、真面目にこの話を聞こうとしている。だから私も真面目に話したいんだ。

 ひょっとしたらあの話の真相を聞けるかもと、実は期待もしているんだ。

 だから酒が抜けた今日、改めて話そうと思った。

 こう言いたくは無いが、便宜上『少し不思議』な話が何か、何かと関係があるんじゃないかとも思っている。






 私は、人は主役であり脇役でもあると思っている。

 聞いた事はないかな、人はみんなは自分の人生の主役だ、って。

 私はこれは正しいと思っている。自分では自分の事しか分からないからな。

 私がこう考えている理由にも関係があるんだよ。

 じゃあ詳しく話すと、私が小学五年生の時の話だ、木曜日だった。月日や季節は忘れたけど、あと五年生なのは覚えている。

 一時間目が終わって、十分休憩の時だった。小学生は十分休憩でも集まって騒ぐだろ、私も友達と喋っていたら、普段はあんまり喋っていない奴が来てこう言ったんだ。

 『だれそれは休んだのに、何で誰も言わないんだ』と。

 だれそれって言うのは、私はもう覚えていないからだ。誰かの名前だったが、全く覚えていない。……忘れているはずだ。

 ともかくそれで、私はこう言ったんだ。

『だれそれ?』と。クラスメートにそんな奴はいなかった。そう思ったからそう言ったんだ。

 その時に一緒に居た友達も一緒に肯定してくれた。何言ってんだこいつは、とは言って無かったが、私達の顔がそう言っていたよ。

 そしたら急に怒りだして、ふざけるな、真面目にやれ、嘘つくな、じゃあ隣の席は誰だ、そう色々と言われた。

 そして取っ組み合いの始まりだ。でも十分休憩だからすぐに二時間目が始まる。担任が来て、ケンカしたと引き剥がされて、職員室に連れていかれたよ。

 まず思ったのがふざけるな、だ。こちらからしたら急にわけのわからない事を言われて、嘘をついて無いのに嘘つきと言われて、掴みかかって来たからな。小学生でも怒って当たり前だ。

 でもそいつは違った、私が悪いって言い張っていたよ。

 しかし言われた名前は、担任も知らなかった。だから時間はかかったけど、私はは悪くないって言われて私だけすぐに教室に戻ったよ。

 もうその日はずっと私は怒っていた、腹の虫がおさまらなかったよ。

 結局そいつはその日は教室に戻らなかったから、怒りをぶつける相手がいなかったんだ。

 家に帰っても、夕食を食べても、風呂に入っても怒っていた。寝る頃になってようやく、少し収まってきた。

 しかし収まりそうになったら言われた事を思い出して、また怒るの繰り返しだった。

 ふざけてないのにふざけるなとか、真面目に言ったのに真面目にやれとか、嘘をついていないのに嘘つきとか。

 しかし、考えていたら一つ気になった事が思いついたんだ。

 隣の席は誰だって言われても、元々誰もいない。そう思ってる、そう思っていた。

 でも私の横に置いてある、誰も使ってない机は、何で置いてあるんだ、と。

 空いてる机は端っこじゃなくて、ほぼ真ん中に有ったんだよ。

 誰も引っ越していないし、急に置いたわけでもない。空いた机はずっとそこに有った。

 考えたら、あそこに空いた机はおかしくないか?

 怖くなってな、その後はそのまま布団をかぶって寝たよ、その日は。

 次の日の金曜日は学校を休んだ、だから木曜日だと覚えていたんだ。土曜か日曜日かには友達が来てくれたおかげで、月曜には学校に行けたよ。

 ただ、机については友達とも話さなかった。と言うか、話せなかった。

 月曜日にケンカした奴に聞こうと思ったが、やっぱり聞けなかった。

 急にあんな事をして一人ぼっちになったのもあったけど、もし詳しく話されたら、私がどうされてしまうのを考えてしまって、聞けなかったんだ。

 そうしてそいつと話せていない内に席替えになったんだよ。

 席替えが終わると、空き机は無くなっていた。

 教室から机を一つ片付けたら、それは分かるはずなのに、気がついたら無くなっていたんだよ。

 それに気がついて、もう分からなくなって、思わずあいつを見たんだ。あいつなら分かると思って。

 ……あいつは、私を全く見ていなかった。私だけじゃない、誰に対してもだ。

 淡々と担任に従って、誰とも目を合わせず、話そうとはしなかった。

 だから私ももう話そうともしなかった。話せなかった、関わりたくなかったんだよ。

 ……まだ、話はまだ終わっていないよ。

 しばらくして六年生の時、修学旅行があったんだ。

 その時にはもう、その事を殆ど忘れていた。だけどあいつとは同じ班になりたくないって思い出したんだ。

 その時に、気がついてしまったんだよ。

 私はあの時、誰とケンカしたんだ、と。

 転校した奴はいなかった、六年生に上がる時にはクラス替えは無かった。

 そのはずなのに、誰かわからないんだ。

 友達に聞いてみたら、ケンカがあった事は覚えているんだ、だけどやっぱり誰かは分からなかった。

 しかもこれだけじゃないんだよ。

 修学旅行のしおりが配られたんだ、そのしおりには学年全員分の班も書いてあった。

 ……人数がおかしいんだ。小学校の頃は二クラスだった。私は一組だった。

 一組は三十人、二組は三十三人だった。

 何で三人も違うんだ?

 ……これに気がついて、すぐに私は思ったんだ。

 実は一組は元々あいつともう一人、三十二人だったんじゃないかって、二人消えたんじゃないかって。

 あの時ケンカした奴は正しくて、あの時はもう一人消えたのを私達は忘れていて、あいつだけが覚えていて、そしてその内にあいつも消されたんじゃないかって……。

 もしくは、あいつは助けに行って、二人で幸せになってる。私はどうにもなっていないから、そう思いたいよ。

 つまり、私はは自分の人生の主人公だ。でも同時に、あいつの人生では脇役だったんだ。そう思っているんだよ。

 ……勘違いであったらいいけど、そう思って頭から離れないんだ。

 これが私の『少し不思議』な話だ。私にとっては『少し』じゃないが、私以外は『少し不思議』で終わる話だよ。

 私だけだよ、この事について覚えているのは。多分、ケンカをしたからだろうな。

 周りからしたら私が昔の事を中途半端に覚えているだけだけどな。

 これでいいかな?

 ……初めてちゃんと聞いてくれて、否定もされなかった。不思議な気分だ、こうなると、私が忘れているだけに思えてくる。

 ああ、私はもう少しここに居て、休んでから帰るよ。

 そうだな、じゃあコーヒーでも頼んでくれたら、それでいいよ。ホテルのラウンジはコーヒーでも高いからね。

 ……ありがとう、私はもう、全てを忘れる事ができると思う。






 目的が終わり別れると、車に乗ってから上司に報告する。

 犠牲者は二人、そう言うと上司は否定して考えもしなかった事を言われた。

 二人は犠牲者とは限らないし、犠牲者が二人とも限らない。昔の事になってしまうが、二つのクラスについて調べる必要がある。

 両クラスに人間はもっといて、覚えられている二人が犯人かもしれない。

「この『少し不思議』な話は、昔の話ならまだいい。しかしもし、今も続けらているとしたら……」

 もし考えている最悪の状況が予想通りなら、危険な事をする必要がある。

 少し不思議は少し不思議のままでいなければならない。

 その為に私たちは活動をしているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】二人だけでは済んでいないかもしれない 直三二郭 @2kaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画