三 付喪神

 一方その頃、町外れにある粗大ゴミの一時保管場所では……。


「──ヒャハハハハ…! 花火やろうぜ花火!」


「ツマミ足んねえぞ! チー鱈も開けようぜ!」


 勝手に入り込んだ若者の一グループが酒を飲んで浮かれ騒いでいた。


 人数は男四人の女二人、皆、まだ十代のバッドボーイ&バッドガールで、特に警備もなく放置されているここを溜まり場にしているのだ。


「ねえ、ビール終わったから冷蔵庫の出してくれる?」


 廃車のボンネットに座って談笑したり、花火を持って周りを走り回ったりする中、一人のギャルな少女が仲間に注文をつける。


「OK! 今、持ってきてやるよ」


 その言葉に、金髪のチャラい少年が返事をすると、背後にある冷蔵庫の方へと近づいてゆく……だが、薄汚れた白く分厚いドアを開いてみても、中には何も入っていない。


「…って、入ってるわけあるかーい!」


 あえてドアを開けて中を見るところまで演じてみせた少年は、そこで振り返ってノリツッコミを入れる。


 無論、こんなゴミ捨て場の冷蔵庫に電気が通っているわけもなく、少女の言葉はこのフリだったのである。


「……え? なに?」


 ところが、ここで仲間達が爆笑してくれるかと思っていたところ、振った少女をはじめとして皆が目を見開いて固まっている。


「え、どうしちゃったの? みんな。そんなにおもしろくなかった?」


「あ、あんた……う、後……」


 ノリツッコミがスベったかと心配になる少年だが、そんなことどうでもいいとでもいうように、少女は震える指で彼の背後を指し示す。


「え? 後……?」


 と、振り返った彼の目に映ったものは、開けたドアの縁に鋭い牙が生え揃い、その奥から触手が如き長くて巨大な舌を伸ばす、獰猛な化け物と化した冷蔵庫の姿だった。


「ひぃ……うぎゃ…!」


 それに気づくも時すでに遅く、涎をしたたらせた長い舌を冷蔵庫は少年に巻きつけると、まるでカメレオンが虫を捕まえるかのようにして一瞬で彼を吸い込んでしまう。


 続けざま、バタン…と扉が閉まるとガタガタ揺れ出した冷蔵庫からは、バリバリと食肉を解体するような音が聞こえ、わずか後、再びドアを開けるとプッ…! と何かを吐き出す……。


 ゴロゴロと足下へ転がるそれを見ると、それは今喰われた少年の、恐怖に眼をひん剥いたまま固まった形相の生首だった。


「ひっ…ひゃあああぁーっ…!」


「キャアァァァーっ…!」


 若者達は絶叫すると、蜘蛛の子を散らすが如く四方へ走り、生首から距離をとる。


 だが、それだけで恐怖は終わらない……。


 今度は彼らが椅子代わりにしていた廃車がブロロロ…とエンジン音を響かせ、ガタガタと車体を揺らしながらチカチカとベッドライトを明滅させ始める……そして、ボンネットが大きく開くと上下に牙が生え、ベッドライトはギョロリと巨大な眼玉へと変化する。


 また、パンクしたタイヤからは青い炎が燃え上がり、人の顔のようにも見えるホイールは炎の車輪を纏って回転をし始める。


 いや、その一台ばかりか他の放置された廃車達も、レンジなどの家電製品も、ひとりでに動き始めると各々が化け物へと変貌する。


「う、うわああああぁぁぁーっ…!」


「キャアァァァァァァーっ…!」


 さらに廃車の化け物は猛獣の如く若者達を追い始め、彼らは阿鼻叫喚の叫びをあげながらゴミ捨て場を逃げ惑った──。

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