第1話
〈4/10 入学式 当日〉
俺は制服を着ながら、今日から始まる高校生活に向けて気合いを入れていた。窓から差し込む朝からの光が、まだ眠気の残る俺の顔を照らす。
鏡に映る自分の姿は、どこか頼りなく見えるが、これから始まる新しい生活への期待で胸が高鳴っていた。
消えてしまえ、緊張と不安...!
俺は深呼吸をして、心を落ち着けようとした。
机の上に置かれた『青春計画』と書かれた俺のノートには、高校生活に向けて、様々な目標が書かれている。清々しい青色のカバーに、力強い文字で書かれた『青春計画』の文字が、俺の決意を象徴しているかのようだ。
『1、人と話す。』
まずはここからだ。だが『人と話す』は、第一歩にして一番ハードルが高い目標だと思う。簡単なことのはずなのに、俺にはそれがとてつもなく難しい。
今まで俺は人の心を読んでしまい、いつも挫折してしまっていたのだ。その人がどう考えているのかが、どうしても気になってしまう。心の声が聞こえるたびに、俺は自分の殻に閉じこもるしかなかった。
(俺は決めたんだ。たとえ気になったとしも、絶対に他人の心なんか読まない!!)
もう、自分の能力で自分を縛るのはやめる。そう心に誓ったのだ。
(まあ、今日はまだ入学式だし、気楽に行こう)
***
〈登校〉
朝の澄んだ空気が、肌に心地よく触れる。俺は新しい制服を着て、少し早めに家を出た。
桜の花びらが風に乗って舞い落ち、道端にピンクの絨毯を作っている。
今日から始まる高校生活。期待と不安が交錯し、心の中でざわざわとした感情が渦巻く。
俺は、通学路を歩きながら、少しずつ自分を奮い立たせていた。道を行き交う学生たちの姿が、これから始まる新しい生活を象徴しているように思えた。
途中、ふと目を上げると、通学路の先に見慣れない学校の校舎がそびえていた。新しく建てられた校舎は、朝日に照らされて輝き、俺を歓迎しているように見える。
一歩一歩進むたびに、心の中の緊張が高まっていく。周囲の学生たちは、友達と笑いながら楽しそうに歩いているが、俺は一人で歩くことに慣れてしまっていた。
(友達、作れるかな...)
自分に問いかけるたびに、答えは不安と期待の入り混じったものだった。もう他人の心を読まずに、普通に会話ができるだろうか。その思いが頭を離れない。
校門にたどり着くと、新入生たちが次々と校舎に吸い込まれていく様子が目に入った。俺は深呼吸をして、少しだけ自分を落ち着けようとした。
(今日からが本番だ...俺もやれるはずだ)
そう自分に言い聞かせ、校門をくぐった。
***
〈入学式〉
俺は椅子に座りながら、緊張のあまり足を震わせていた。広々とした体育館の中、静けさが緊張感をさらに煽る。周囲には、何を考えているか全く分からない生徒たちが座っている。
天井からは柔らかな光が差し込み、新しい制服に包まれた新入生たちの表情が明るく照らされていた。だが、その裏側にどんな思いが隠されているのか、今の俺には分からない。
俺は、これから他人の心を読まずに関わることができるだろうか…。そんな疑念が頭をよぎる。心の中で「大丈夫だ」と自分に言い聞かせるが、足の震えは止まらない。
「次に、新入生代表の真白雪(ましろゆき)さんより、挨拶をしていただきます。」
その言葉に、俺の心臓が一瞬止まりそうになった。真白雪と呼ばれた女子生徒が静かに立ち上がり、壇上に向かって歩き始めた。
彼女の姿は、まるで舞台に上がる女優のように優雅だった。彼女の長い髪が、背中に流れるたびに光を受けて輝く。
(あ、アイツは…!!)
彼女の一歩一歩に、心臓が強く打つのを感じる。かつてのトラウマが蘇ってしまう。
彼女とは同じ中学だった。彼女が歩くたびに、過去の苦い記憶が鮮明に蘇る。
粗相も無く、上品に他人に振る舞える君を見て、俺は残酷だと思った。真白雪の存在が、俺の世界をどれだけ乱したか…。
『可◇い...』『マジで...◇◇してぇ』
周囲から渦巻く醜い心の声が、俺を苦しめた。
『調子に乗って…』『生意気だよね』
真白雪という灯りに照らされて、明らかになった人々の素性が、俺を段々と苦しめた。
『◇◇......!!!!』
だから、嫌いなんだ。
壇上に上がった真白雪は、マイクを確認し、適切な高さに調整すると、校長先生や来賓、保護者に向かって軽くお辞儀をした。
彼女の動作は一つ一つが丁寧で、静寂の中に気品が漂っていた。
「皆さま、本日はお忙しい中、新入生の入学式にお越しくださり、ありがとうございます。」
彼女の声は澄んでいて、落ち着きがありながらも真摯さが伝わってくる。まるで、心の中まで浄化されるような感覚だ。
(すげえ、俺はここに座ってるだけでも限界だって言うのに…)
彼女の話す内容に耳を傾けると、これからの学校生活への期待や目標が込められており、その姿勢に感心するばかりだった。真白雪の淑やかさと、その真剣な眼差しに、周囲の空気も一変したような気がした。
(こいつらは、話している雪の姿を見て、どう思っているんだろう)
周囲の表情からは何も分からない。皮を被るとは正にこのことだ。彼女に対して何を思っているのか、今の俺には知る術がない。
(いや、何を考えているんだ...!)
他人を疑うなんてやめろ。これでは、あの時の俺と同じだ。安心して学生生活を楽しむって、決めたじゃないか。
そう自分に言い聞かせ、再び心を閉ざした。
***
〈下校〉
「バカ疲れた」
地獄のような入学式がようやく終わり、俺は全身の力が抜けるほどの疲労感を抱えて、家路に向かってゆっくりと歩いていた。
(大丈夫なのか、俺…?友達なんて、作れるのか?)
そんな不安が胸を占める中、ふと電柱にもたれかかる。すると、突然背後から声が聞こえた。
「あっ、橘君!」
誰かに苗字を呼ばれ、驚いて振り返ると、そこには――あの真白雪が立っていた。
「久しぶりだね。私、三年生の時に同じクラスだった真白雪だよ。覚えてるかな?」
「え、あ...」
(どういうことだ?何の関わりもなかった俺に、一体何の用だよ)
混乱しながらも、彼女の真剣な眼差しに視線を奪われる。
「もしよかったら、一緒に帰らない?少しお話ししながら」
その提案を聞いて、驚ききと困惑で思わず言葉を失ってしまった。
人間不信だった俺が青春を取り戻すために...!! @bakajanainoka
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