小説のアドバイス

りりぃこ

辛口の感想は怖い

 私には、大人になってからとても仲良くなった友人がおります。

 趣味を通じて出会ったその友人は、とても優しくて賢い人でした。


 彼女は、かなりの読書家でありました。給料の大半を小説に注ぎ込んでおり文字通り寝る間を惜しんで本を読む。彼女の勧める小説は全部面白く、「この小説、これから来るよ……」と彼女が予言した小説は本当にすぐその通りになりました。


 なのである日、私は勇気を出しました。

 彼女に、私の書いた公募用小説を評価してもらおう、と。


 その日、私はチェーンのコーヒーショップでのおしゃべりの途中で、とある純文学系の公募に出そうと思っていた作品を彼女の前に差し出しました。彼女に小説を見せるのは初めてです。

 彼女は困ったように言いました。

「私、そういうのわかんないよ。その、編集者の思惑とかしらないし、審査するのってプロの小説家の人でしょ?」

「いいの。読者の目線でのご意見を何となくでいいから」

 私のお願いに彼女は困った顔のままでしたが、優しいのですぐに承諾してすぐに読み始めてくれました。


 速読術を取得している彼女は、あっという間に私の中編小説を読み終えます。


「し、正直にお願いします。でもその、お手柔らかに……」

 私がドキドキしながら言うと、彼女は真面目な顔で頷き、そして話し始めた。


「えーっと、まず登場人物のキャラクター性は悪くないと思う。性格が悪すぎて読者に受け入れられるかどうか微妙なとこだけど、意外に共感できる可愛らしいとこもあっていいんじゃないかな。でも、変に途中からいい人っぽいエピソード入れるのはキャラぶれしてて私個人としては嫌かな。長編じゃないこれくらいの小説でなら一貫したキャラで突き通してほしいかも。このキャラぶれは自信の無さの現れな感じがする」


「な、なるほど」


 私はちょっと、ビビってしまいました。正直、優しい彼女から手厳しい感想が出るとは思っておらず、ちょっと褒めてもらえれば自信がつくな、と思っていた甘ちゃんの私は、彼女の案外辛口の感想に怖くなってきてしまいました。

 しかし、頼んだのは私です。腹をくくって彼女の話をしっかりと聞こうと背筋を伸ばします。


 そんな私に、彼女は心配そうに一旦言葉を止めました。

「大丈夫?私変な事言ってないかな?」


「全然全然!続けて!」

 私が続きを促すと、彼女はさらに続けました。


「セリフが少なめだよね。これ、純文学だからってあえて?純文学だからセリフ少なめっていう単純な発想ならやめたほうがいいと思う。必要なとこにセリフが無いのはちょっと読んでてストレスかな。飽きるし、独りよがり感が強くでてるって言うか……もしかして純文学ってつまらなくてもいいって思ってないかな?純文学こそ、読ませる工夫必要だからね。

 あと文章ね。感情表現は悪くないんだけど、状況描写とか、動きの描写があまり上手くないかなぁ。身体をどう動かしたかとか、どういう表情かとか、あまり上手く説明出来てなくてちょっと意味がわかなくて読み返したとこが多かったかも。実は私、あなたがネットに上げてるエッチな小説よんでるんだけど、そっちの方が体位とか説明ちゃんとされてて上手いと思ったよ。やっぱり、読んでる人がちゃんと想像できる書き方は最低限必要かな。

 あ、そうそう、難しすぎる言葉とかは無理に使わない方がいいと思う。どこだったかな。全体の文章に不釣り合いな難しい単語が使われてたんだけど、完全にその単語を使う必要は無いと思った。こだわりがあるならごめんなさいなんだけど、何も考えてないなら、やっぱり理解しやすい言葉がいいと思う。

 最後に、ラスト。よくあるラストだけどちょっとじわっとしたよ。でもなんか尻窄みな感じがあるんだよね。……雰囲気でなあなあにしてる感じ?私にはどうすればいいか具体的にはわかんないけど、でもなんかもう一つ欲しいかなって思った。全体的に面白くないわけじゃないけど、筆力不足感があるのと、ちょっと途中飽きそうになるとこがあったのが残念かな」


 か、辛口……。でも。


「ありがとう。こんなに丁寧に言ってくれて嬉しい」

 私は彼女のご意見に凹みそうな気持を抑えながらも、頭を下げました。

 ショックはショックでしたが、こんなに言ってくれてありがたい気持ちのほうが大きかったのです。


 私の言葉に、彼女も原稿を返しながら微笑んでくれました。

「ごめんね、キツイ言い方になっちゃって。でも応援してるよ」


 そう言ってコーヒーを啜る彼女をみながら、私はメモを取り出し、さっきの彼女の言った言葉をゆっくりと脳内で復唱してみました。

 キャラクター性、セリフ、描写……。


 途中でふと、身体の血の気が引いていくのがわかりました。


 え?彼女、何て言った?何を読んでるって……?


 ブルブルと真っ青な顔で震えだす私に気づかないのか気づかないふりをしているのか、彼女は優雅にコーヒーカップを軽く振っていました。



 END






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小説のアドバイス りりぃこ @ririiko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ