終章α・永遠の友情

 選択肢1:「律のもとへ行く」


 俺は震える手で音楽室のドアを開けた。薄暗い室内に足を踏み入れると、不自然な冷気が肌を刺した。その冷たさは、真夏の暑さを忘れさせるほどだった。律の姿が見えた瞬間、心臓が激しく高鳴った。彼の輪郭がわずかに揺らめいているように見えた。まるで風に揺れる炎のように、儚くも魅惑的だった。


「翔太...君が来るなんて」


 律の声は少し反響し、どこか現実離れした響きを持っていた。まるで遠い洞窟から聞こえてくるような、不思議な余韻があった。しかし俺には、それが心地よく感じられた。哀しみと喜びが混ざり合ったような、不思議な感覚だった。


「来ないでって言ったのに...」


 律の目から一筋の涙が流れ落ちた。部屋の隅々から薄い霧のようなものが立ち込めてきた。俺は黙ってうなずき、ピアノの前に座った。椅子が妙に冷たく感じられたが、その冷たさが、これから始まる特別な時間を予感させるようだった。


「最後の演奏...一緒にしよう」


 俺たちの指が鍵盤に触れた瞬間、音楽室全体が淡い光に包まれた。壊れかけたテレビのノイズのような、少し耳障りな音が混ざる。だがその音は、現実世界と幽霊の世界が交差する境界線のような、不思議な響きを持っていた。

 律の姿が、だんだんとはっきりしてきた。彼の姿が現実味を帯びていくのを見て、俺は心が躍るのを感じた。まるで霧の中から姿を現す幻想的な生き物を見るような、そんな感覚だった。


「律...」


 俺の声は恍惚としていた。体が少しずつ軽くなっていく感覚があったが、それは俺にとって心地よいものだった。まるで重力から解放されていくような、自由で開放的な気分だった。


「一緒に行こう、翔太。本当はこうなって欲しくなかったけど...でも、君と一緒なら...」


 律の言葉は、耳の中でかすかに反響したが、俺にはそれが愛の告白かなんかのように聞こえて、苦笑した。

 最後の音が静かに響き渡り、そして......深い静寂が訪れた。


――エピローグα――

 数年後、旧校舎から不思議な旋律が聞こえるという噂が広まった。その音を聞いた者は皆、少し寂しげだが幸福感に包まれるという。

 旧校舎は今も静かに佇んでいる。月明かりに照らされたその姿は、どこか物悲しくも美しい。その内部では、二人の魂が永遠に寄り添い、美しい調べを奏でているのだった。時間も空間も超越した、永遠の友情の証のように。

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