関係者インタビュー:「印刷」

 …やめときゃ良かったんだよ。


 依頼されてさ。

 行方不明の学生のビラを作っているんだ。


 一番最近の画像が良いというから。

 彼らが撮っていた動画を切り抜きしてね。


 …うん、十本は観たね。

 何ぶん依頼者がしつこくてさ。


 これは映りが悪い。

 これは余計なものが入ってる。


 そんな感じで、作り直しを何度もさせられて。


 …一応、こっちも学生と同じ大学で。

 その縁で依頼が来たと思っていたんだけど。


 親御おやごさんから、ずいぶん話も聞いたりして。

 昔話からアルバムまで見せられて。


 ――溺愛できあい?でもないけど。

 過保護だなあとは、思ったね。


 …ああ、話がれた。

 何でポスターがいつまでも完成しないのかって?


 ――親御さんから納品の苦情?

 んなもん、知ったこっちゃないね。


 こっちだってさ。

 さんざん苦労しているんだよ。


 映り込み云々うんぬんの原因が、コイツらだから。


 …何がって、赤子だよ。


 どの写真にも必ず赤子が映り込む。


 静止画では問題無いのに。

 いざ、プリントアウトすると入ってきてさ。


 …まあ、何度も起きるとな。

 さすがに見間違いだと思うわな。


 一度だけ、そのまま提出したら。

 やっぱ見えるらしくて怒られてさ。


 しかも、親御さんの怒り方が尋常じんじょうじゃない。


 よく考えたらさ、そっくりなの。


 …ほら、言っただろ?

 依頼者から子供の頃の見せられたって。


 その赤子の頃の写真にどれも似てるの。


 ぶっちゃけ困ってさ。

 向こうも断れば良いのに何度も催促さいそくしてくる。


 ――まあ、欲しいなら事務所に取りにきなよ。

 こっちも、うるさくてたまらないから。


 …黙り込むなよ。

 電話ごしでも、聞こえているんだろ?


 連中さ、写真越しに手を広げているんだ。


 ――赤子特有の、あの泣き声をあげながらさ。

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