関係者インタビュー:「妻入りの井」

 …まあ、流されてるんでしょうね。


 入って、驚きましたか?


 そうなんです。

 ここは間口まぐちが狭くて。


 妻入つまいりと言って、隣家りんかと連なる形で。

 代わりに奥行きがある伝統的な家でして。


 そう、この奥の井戸。

 昔は裏と左右を挟んだ共同の井戸だったそうで。


 ここで昔…叔父が浮かんでいまして。


 もう二十年も前ですかね。

 僕も、子どもの頃だったんで。


 ――ええ、一人っ子なので。


 大学の勉強が終わる頃。

 唯一の身内である父親が病で伏せて。


 つい最近になって家業を継ぎまして。


 …そのせいで周りについてはノータッチで。


 まさか、裏手の夫婦が亡くなって。

 買い取られて資料館に改装されていたなんて。


 ――で、学生さんでしたよね?

 この街でドキュメンタリーを撮ろうとして。


 ダメなんですよね。

 妻入りの中で光り物はご法度はっとなんで。


 鏡とか、ガラスとか。

 叔父はホームビデオのカメラで駄目でしたし。


 …まあ、大丈夫です。

 時間はかかりますが、出てきますから。


 話では、この下の水脈を流れているみたいで。


 叔父の残したビデオの映像もそうでしたし。 

 学生さんの動画でも水の中にいるそうですから。


 …まあ、昔からの家屋なので。

 妻入りと井戸で一つの母親みたいなものでして。


 ですから、浮かんでくるのは十月十日。

 それまで胎内巡たいないめぐりをしているんです。


 ――大丈夫、きっと浮かんできますよ。


 生まれ直して。

 かえって来るようなものですから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る