関係者インタビュー:「返答」

 …声が聞こえるんだよね。


 木彫を作り始めたのは教師を辞めてから。

 その処女作しょじょさくが、たまたま賞に入って。 


 それから制作を頼まれるようになって。

 こうして、アトリエまで構えて。


 …そうそう、小学生も見に来るよ。


 ほら、そこにある木像。

 背中に穴があるでしょう。


 自然にできた節を活用しているんだけど。

 ここに願い事をすると叶うと話してるんだ。 


 みんなを喜ばせようと思ってね。

 中には本当に百点を取る子もいたよ。


 それから…しばらくしてからかな?


 学生さんがドキュメンタリーを撮りたいと。

 像を作るところが見たいと言ってきた。


 こちらは来るもの拒まずだし。

 ましてや美大の学生さんだからね。


 喜んで取材を引き受けた。


 …まあ、ほんの一場面だけどね。

 彼らの作品の一部として使われるそうだ。


 ただ、その映像もお蔵入りのようだからね。


 最後に、像を撮影していた学生さんの背中をよく覚えているよ。


 …それから、だったね。

 声が聞こえるようになったのは。


 子どもたちが見学をする夜間にね。


 製作途中の作品の節穴から。

 しまいには、自宅の板の隙間まで。


 声は抑揚よくようがなくて。

『叶う』や『難しい』と、短く告げるんだ。


 …驚いたけど、不思議と怖くはない。


 もちろん、子供たちには言わなかった。

 可哀想じゃないか、悪い場合は特にね。


 …でも、最近は言葉が変わってね。

 変わったと言うか、一律いちりつになった。


 そう、動画を見つけたんだ。

 学生さんが撮っていた私の木像制作の動画を。


 当初の目的だったドキュメンタリーは無かった。

 そも、当人たちが行方不明になっていたしね。

 

 …動画も短くてね。


 学生さんが『撮影、無事終わりますか?』と節穴に向かってくだけ。


 するとね、穴から声が聞こえるんだ。


『わからない』


 …そう、そうなんだよ。

 最近聞く言葉のすべてが、こうなんだよ。


 テストの結果。

 好きな子がどう思っているか。

 明日の試合がどうなるか。


 子どもの質問のどれもが『わからない』。


 …正直、困っているんだ。


 本当に何もわからないのなら、まだ良い。

 学生さんも行方不明で、以降がこの返答だ。

 

 本当に『わからない』のなら伝える必要も無い。


 それが聞こえるということは、何かあるのか。

 あるいは何も無いのか。


 それが何を意味するのか。

 今も怖くて、仕方が無いんだ…

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