10.事件
事件は夕飯をみんなで食べ終えて、体育館でのお楽しみ会の時に起きた。
体育館でキャンプファイヤーはできないからと、舞台装置の照明を真ん中に置いた。赤黄青緑のフィルタが付いた丸い照明を、校長先生がくるくる回すと辺りが目まぐるしくカラフルになった。その校長先生と照明の周りを、十五人と羽村先生でジェンカを踊った。フォークダンスをするのに16人は、ちょっと少なすぎた。
「なんか目が回るね」
みんなで言って、笑いあった。その後は風船でバレーボールをして、歌を歌って記念撮影をしましょうという時だった。
十五人が一列に並ぶ。真ん中で羽村先生と校長先生がしゃがんでいる。ココは左の端から二番目だった。その隣の左端はリセ。この並びになったのに、特に意味はない。写真を撮るために集まったらそうなっただけのことだった。
「はい、こっち向いてー!」
カメラをみんなに向けているの保健の先生だ。笑って笑っての声に、ココは可愛く見えるように少しだけ首を傾けて目を大きく開けて口角をあげた。
その時だった。
左のふくらはぎに痛みが走った。勢いあまって、みんなの列から一歩ふらつくように前に出る。
「はい、オッケーでーすっ」
シャッターを切った保健の先生がオッケーを出したのと、ココが前に出たのは殆ど同時だった。
だからみんな気がついていないようだった。ココだって最初、何が起きたか分からなかった。
ふくらはぎの痛み。勢いよく当てられた、硬いゴムの感触。
まさかと思う。そんなはずはないと思う。みんなが笑っている。先生が部屋に戻ってシャワーを浴びるよう、指示をしている。先生も笑っている。みんな笑顔だった。先生も笑顔だった。
──リセも。
みんなが笑いながら体育館の出口に向かっていく。ココだけが付いていけずに、ぼうぜんと一人さっきの撮影場所から動けずに立ちつくしていた。
そっとショートパンツから伸びた脚の、左ふくらはぎを見る。痛みの個所は、見事に赤くなっていた。当然だ、あんなに衝撃があったのだから。
あの、シャッターを切る瞬間。
隣にいたリセが、ココの脚を蹴とばしたのだった。
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