バンコク怪奇譚8 運河の影:バンコクの夜に消えた女1
バンコクの夜、コールセンターからの帰路
月給50,000バーツを稼ぐために、毎日電話応対に明け暮れる日々。日本人女性の佐藤奈々子は、バンコクのコールセンターで働きながら、タイの生活に慣れつつあった。彼女は、東京から飛行機で約7時間の距離にあるこの東南アジアの都市で、新しい生活を始めたのは半年前だった。日本語でのカスタマーサービスが求められるこの仕事は、彼女にとっては安定感を与えるものだった。しかし、仕事のストレスと孤独感が時々彼女を襲う。
仕事帰りの夜
その日の仕事が終わると、奈々子はオフィスを出て、夜のバンコクの街を歩き始めた。今日はいつもと違う道を選び、プラカノン市場に足を運ぶことにした。市場の活気に興味を持ち、フルーツを買おうと思ったからだ。彼女は、市場の入り口に立つと、目の前が広がるように見えた。色とりどりのフルーツや花、そして人々の喧騒が彼女を引き込んだ。
迷路のような市場
市場の中を歩きながら、奈々子はフルーツスタンドを探した。市場は迷路のように複雑で、彼女はすぐに道に迷ってしまった。右を曲がり、左を曲がり、次の瞬間には運河沿いの道を歩いている自分に気づいた。運河の水面には、夜の明かりが反射してきらきらと光っていた。彼女は、運河のそばを歩きながら、市場の喧騒が遠くなるのを感じた。心の中で、彼女は「ここはどこだろう」と思った。彼女の足は、自然と運河沿いの道を進んでいた。
不気味な老婆との遭遇
その時、奈々子の視界に一人の老婆が飛び込んできた。老婆は、薄汚れた衣服をまとい、髪は白く、乱れていた。彼女の目は、まるで奈々子の心の奥を見透かすかのように鋭く、彼女の体が凍りつく。老婆は、手に古びた黄色の扇風機を持っていた。その扇風機は、埃をかぶり、色あせていたが、どこか異様な魅力を放っていた。
「買わないか、若い娘よ」と老婆は、低い声で囁いた。彼女の口元には、歯がほとんど無く、笑みを浮かべているようにも見えた。奈々子は一瞬、扇風機に引き寄せられるような感覚を覚えたが、すぐにその不気味さに気づき、背筋が凍った。
「い、いりません」と奈々子は声を震わせながら言ったが、老婆はしつこく続けた。「この扇風機は特別なものじゃ。涼しさをもたらすだけでなく、運を呼ぶ力があるんじゃ。」
逃げ出す奈々子
奈々子は、恐怖に駆られ、その場を離れようとした。しかし、老婆は手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。冷たい手の感触が、彼女の心に恐怖を植え付けた。奈々子は、必死に腕を振りほどき、逃げ出した。市場の喧騒の中で、彼女は振り返らずに走った。背後からは、老婆の不気味な笑い声が響いていた。
心の不安
運河沿いの道を歩いていると、古いアパートの建物が目に入った。建物は老朽化しており、壁にはひび割れが見えた。だが、建物の入り口には「Room for rent」という看板が掲げられていた。奈々子は、興味を持ってアパートの中に入ることにした。建物の中は静かで、彼女はエレベーターや階段を見つけられなかった。代わりに、狭い階段が上に向かって続いていた。
階段を登る
階段を登り始めると、奈々子は不気味な感じがした。階段の手すりは埃だらけで、壁には古い写真が飾られていた。写真の中の人物は、彼女に何も伝えようとしているように見えた。彼女は、階段を登り続け、2階、3階と上がっていった。各階には、同じようなドアが並んでいたが、どの部屋も明かりが見えなかった。彼女の心は、次第に緊張していった。
部屋のドア
4階に到着すると、奈々子は一つの部屋のドアを見つけた。ドアには「404」という番号が書かれていた。彼女は、ドアのノブを回してみた。ドアは開き、暗い部屋が現れた。部屋の中は、埃だらけで、家具はほとんどなかった。ただ、ベッドのそばには、古い鏡が置かれていた。鏡を見ると、奈々子は自分自身の姿を見たが、そこに何か異常なものが見えた。
鏡の中の影
鏡の中の奈々子の姿は、いつもの彼女と違っていた。彼女の背後には、影のようなものが見えていた。影は、彼女の姿を完全に覆い尽くしていた。奈々子は、鏡から離れようとしたが、足が動かなかった。鏡の中の影が、彼女に向かって近づいてくるのを感じた。彼女は、恐怖に駆られた。心の中で、彼女は「何が起こっているの?」と叫びたい気持ちがした。
消えた鏡の中の影
突然、鏡の中の影が消えた。奈々子は、鏡から離れ、部屋を見回した。部屋は静かで、彼女は何も見えなかった。彼女は、部屋を出て階段を下り始めた。階段を下りる途中で、彼女は古い写真を見つけた。写真の中の人物は、彼女に何かを伝えようとしていた。彼女は、写真をポケットに入れて、建物を出た。
運河沿いの夜
運河沿いの道を歩きながら、奈々子は夜のバンコクの街を感じた。彼女は、市場に戻り、フルーツを買おうと思ったが、心はまだ不安定だった。彼女は、市場の喧騒の中で、自分を見失ったような感じがした。彼女の心の中には、古いアパートの影が残っていた。
この夜、奈々子は、バンコクの夜の街を歩きながら、自分自身を見つめ直す必要性を感じた。彼女の生活は、安定しているように見えたが、実際には、彼女の心の中にはまだ多くの謎が残っていた。彼女は、フルーツを買い、家に帰ることを決意した。だが、彼女の心の中には、まだ何かが動き始めていた。古い黄色の扇風機が、今後の運命にどのように影響を与えるのか、彼女はまだ知らなかった。
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