クレーンゲーム

「あーん、取れないー」

 電車で三駅くらい移動して、のんちゃんとわたしはゲームセンターに着いた。のんちゃんはさっきから、クレーンゲームのうさぎのぬいぐるみと格闘している。わたしのことなんて忘れてるみたいだ。唇をつんと尖らせた顔のうさぎは、どことなくのんちゃんに似ていた。

「ちー、取ってこれ」

 ぼうっとしていたら、のんちゃんに呼ばれた。どうしても欲しいらしい。

「どれ?」

「あの、奥の……」

 のんちゃんの体がわたしに近づいて、顔が熱くなる。のんちゃんは香水も変えたみたいで、ふわんと甘い匂いがした。わたしよりも背が低いから、ジャージの下の白い首が見えている。

「……ちー」

 不機嫌な声ではっとした。わたしの視線に気づいたのんちゃんが、じっとりわたしを睨んでいる。

「あ、のんちゃん、ごめ」

「じろじろ見ないで。あんたまだあたしのこと好きなの?」

「……うん」

「ほんときもい」

 のんちゃんは機嫌を悪くしたみたいで、「あたし太鼓やってくるから、それ取っといて」と言ってどこかへ行った。

 ちゃり、と百円玉を入れる。軽快な音楽が鳴って、カウントダウンが始まった。そう言われても、わたしはそんなにクレーンゲームが上手いわけではない。百円はあっさり失敗に終わった。追加でもう百円。つんとしたうさぎの顔が、さっき怒っていたのんちゃんの顔に重なる。

 のんちゃんの言う通り、わたしはのんちゃんのことが好きだ。のんちゃんはわがままで、自分勝手で、口も悪いけど、それでも好きだ。

 中学を卒業する時も、わたしはのんちゃんに告白した。その時も「きもい」とフラれた。それなのにわたしはのんちゃんがまだ好きだし、のんちゃんもわたしと縁を切ったりしない。のんちゃんはそういうところが少し変だ。暇つぶしがいなくなるのが困るのかもしれないけど、多分のんちゃんの暇つぶしはいくらでもいて、わたしなんてのんちゃんの生活の一部、いやひとかけらでもない。のんちゃんの中でわたしは、年に何回か、思い出した頃に起こるイベントみたいな存在なんだろう。

 五百円使ったところで、百円玉がなくなった。両替機を探していると、リズムゲームをやっているのんちゃんがいた。のんちゃんはゲームをしているとは思えないくらい沈んだ顔で、画面を見つめていた。

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