忘却祠のお狐様

風宮 翠霞

第1話 逢魔時の数刻

『あ〜‼︎こう、また来たの?相変わらず目が死んでるね〜』


さんくん、久しぶり。あと、目が死んでるのはデフォルト……」


白銀の九本の尾を振り、ニコニコと笑いながら私に話しかける青年に、私はほんの少し微笑みながら答える。いつものやりとりだった。


崩れかけの祠の上の浮かんで座り、優雅に足を組んだ彼を視界の端にとらえながら、私はいつものように祠に背を預けるようにして地面に腰を下ろす。


『今日はどうだった?』


「……別に。いつもと変わらないよ」


『そう、なら良かったよ。平和が一番だ』


移りゆく空の色を二人並んで眺めながら、ぽつり、ぽつりと話をする。


性別、種族、寿命、考え方……何もかもが違う私達は、いつもこの絶妙な距離で会話をしていた。


陽光によって赤く染まった空が藍色に染まるまでの短い時、逢魔時おうまがときに行われる数刻だけの交流。


とても短くて、あまり意味のない話も多いけれど……私にとってこの時間は、何よりも大事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

忘却祠のお狐様 風宮 翠霞 @7320

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ