第51話 陸、三辰の影に潜み、

「陸、三辰の影に潜み、俺が声を掛けたら影戯で玉藻を討て!!」


「いや、その影の位置だと玉藻に刃先が届かない?!」


 玉藻は神のように自ら輝いて影を作らない。そして、やつの電磁場、絶対防御結界は柊が弾き飛ばされた場所から推測して半径二メートル。影戯の刃渡りは一メートル余りだから、三辰の影が絶対防御結界にない限り、影戯の刃先は玉藻には届かない。しかし、絶対防御結界内に入る術(すべ)がこれまではなかった。だが、これなら行ける!


「必ず、玉藻に届かせる!! 七星!! 俺が合図したら、その場所から三辰に向かって「一閃」を放て!!」


「光は電磁場で歪むのよ!! 光芒の放つ光子は結界内の電子に絡め取られちゃう!」


 七星の言葉はもっともだ。光は重力でも歪むのだからそれより強い磁場で光の進行方向は歪む。だが……、有無は言わせない。


「大丈夫だ!! その位置から二メートルばかり飛び上がって切り込め!! そうすれば上手くいく(はず)!!」


「わかったわ!!」


 俺を信じる声が返ってくることで、こちらの準備は整った。玉藻は俺たちの出方を窺うように、扇子を口元に当てたまま、数十センチほど浮いて十メートル手前で留まっているが、その目には憎たらしいほど自信が溢れ、俺達を見下している。


 そんな態度も今のうちだ。目に物見せてやる。


 俺は重力操作で三辰を一本の棍棒のようにすると、左手側を地面を引きずるように玉藻のほうに足を進ませる。もちろん、その間に陸は影戯を三辰の影に滑り込ませていた。


 そして、三辰を上段に構えて、一歩を踏み込むと同時に振りかぶった。


「たあああああっ!! 七星 今だ!!!!」


 七星は加速する俺の打ち込みに合わせて、放つタイミングを図っていた。「光芒一閃」が上乗された三辰の一撃が絶対防御結界を打ち破るに違いない。


 だからこそ躊躇なく俺の三辰に一撃を加えた。だだ、俺は上段に振りかぶったまま三辰にに光芒一閃の衝撃に奥歯を噛みしめて耐えていた。


「今だ!! 陸 影戯を!!」


 俺は痛みに耐えて歪んだ口元から陸に向かって指示を絞り出した。


 一閃を背後から受けた三辰の影がうっすらながらも玉藻の足元に出来ていた。玉藻自身から後光のように発せられる光を一閃の一瞬の輝きが凌駕し、刹那の間だが影が出来たのだ。


「影戯!!」


 三辰の影から漆黒の刀身が現われる。影と金属の性質を併せ持つ影戯の出現に、絶対防御結界の中の電磁場に異変が起きた。

 どういう原理でこんなことが起こったのか?俺にだって説明は不可能だが、影戯の刀身に黒い稲妻が纏わりついて、生きているように暴れまわるのだ。


 陸の方でも影戯の暴走を制御できない。結界内に稲妻が走り回り、玉藻を攻撃している。


 それどころか、影戯を通して、陸の持つ柄から漆黒の稲妻が飛び出し、四方八方に放電する。その稲妻が三辰など俺たちの持つ温羅鋼の武具に落雷のように落ちてくる。周りを浮遊している形代が真っ黒になって一瞬で燃え尽きた。身体は無事でも、着ていた服は燃えてぼろ雑巾が肌に張り付いている状況だ。


 周りもみんなも同じ状態で、陸も限界とばかりに影戯を元に戻して肩で息をしていた。


 玉藻のほうも同じで、美しい顔には火傷があり、燃えてぼろ切れになった着物の隙間から焼け爛れた肌が覗いている。


 同じ状況だと云ったが、こっちはエロで向こうはグロっぽい。


 そう断言したが、玉藻の方は肉体を持たない精神体、炎のダメージはすぐさま逆再生のように治っていく。


 ただし、その顔はすまし顔から怒りの形相に変わっている。


「地獄の最底辺の闇で燃える漆黒の業火……、こんなふうに再現されるとは、あては驚いた!! 厄介なことどす。あんさんら、ここでぶっ殺しとかんと!!」


 玉藻はわなわなと震えながら、狙いを定めたように扇子を俺たちに突きつけた。でも、九尾の毛が逆立ているのがどこか滑稽で、俺はこんな場合にも関わらず吹き出してしまった。


 それが癇に障ったようだ。


「あてら一族の誇りを侮辱するとは、ますます、許せんどす!!」


 まあ、なんと云うか。どんな美人でも獣人のカテゴリーに入るとしっぽが自慢のようだ。などと考えていると、玉藻の再生が完了したようで、興奮状態の尻尾から艶のある毛並みに戻り、仕切り直しばかりに俺たちに殺気を向けた。


 そのタイミングで尻尾が伸び、四方八方に広がり、玉藻から離れるとそれぞれ玉藻の姿に変身した。

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