第48話 陸が宮司の話に相打ちを打ち
陸が宮司の話に相打ちを打ち、そうなると、気の短い彩夏や七星は輝夜を急がせるのだ。
「比礼をを取りに行くよ! いいよね!」
彩夏は立ち上がると輝夜の手を取って無理やり立たせた。
「ほら、みんなも龍穴に行くよ!!」
すっかり七星もその気になって、盛り上がっている。先頭にたち拝殿を出ていこうとしたところでこちらを振り返った。
「ところで、龍穴ってどこ?」
七星は龍穴の場所を知らなかった。
「逆方向だな。奥にある本殿へ上がる階段の裏に龍穴に通じる通路がある」
さっき、三辰を手に入れた場所だ。俺は先頭にたち階段の横に潜り込んだ。さっきと同じ両開きの扉を開けて、真っ暗な中に飛び込んだ。
センサーライトが反応し、奥まで岩肌が剥き出しの洞窟を照らし出す。
「うおっ?!」
背後で柊の声が聞こえた。
奥行は五〇メートルぐらい。そして、突き当りの手前に祭壇がある。ここからはよく見えないが、祭壇の上には行商人が造ったという豊雲のレプリカが乗っかっている。
さっき宮司から聞いた話のせいで、この空間が特別のものに感じる。別次元に繋がる空間だと思うと修羅道で過ごした日々を思い緊張が走る。それはみんなも同じうで表情は硬い。黙ったままそれぞれの所定の位置に付く。
困った顔でまごまごしている輝夜を手招きで呼び寄せ俺の隣二メートルの場所に立たせた。六人の立ち位置は生六角形の頂点と同じで男と女交互に立っている。
俺と陸と柊、輝夜と七星と彩夏を頂点に正三角形が二つできる。
「グラビティ・ベクトル・ブースト!!」
め身代わりの形代を飛ばし、たたら神の加護の発動を仕込んだ呪符を地面に叩きつける。
地面に六芒星の魔法陣が浮かび上がり、空間が凝縮され中心に底なしの穴が出来上がる。疑似ブラックホールの出来上がりだ。
そのブラックホールに六人は飛び込んだ。それを確認したように、底なし穴は閉じて何事もなかったようにいつもの空間を取り戻していた。
◇ ◇ ◇
真っ黒な視界が突然開(ひら)けると、そこは幅五〇メートルほどの砂浜の両側にどこまでも続く海岸線だった。白浜には枝ぶりの良い松林もある。天橋立に似た場所だが……。
絶好の景勝地の中で、違和感を放つ真っ赤な海面。空もその赤を反射したように赤く染まり不気味な雰囲気だ。
「ここが次元の狭間だよね?」
なんとなく何もない真っ白な空間を想像していた俺は彩夏の疑問に返答に詰まる。ただ、隣の輝夜だけが唸っていた。
「うーーん、多分、ここは浦島太郎が亀を助けて竜宮城に行った海岸じゃないかな? お伽話の通りだとすると……」
自信なさそうに言っているが、心理学的には高次元は精神世界に位置し、共通のイメージが実現する世界らしい。天国も地獄もそして修羅道も共通の妄想に駆られた人々の想いが作り出した世界なのかもしない。
この海の向こうには竜宮城か蓬莱か? 天国と呼ばれる時空が存在するのか? じゃあ赤い方の海の向こうは地獄だったりして……。そんな感想を持って海に近づいて海の中を除き込むと、海の中には食い千切られた無数の人間の躯が漂っている。
修羅道でもお目にかかったことがない惨状に、思わず目を背けた。この赤い海のあり様は……、血の池地獄……。そんな思考は無駄だとばかりに海から毒々しい気配を纏い無数の異形(いぎょう)のモノ達が飛び出してきた。
その形態は毒を持つ生物独特の毒々しい警戒色をした蛇やトカゲ、サソリや蜘蛛、サメやウツボなどに似ているがそのサイズは人間を丸のみできるほど巨大化しており、自らの毒に爛れた皮膚は毒を含む体液でヌラヌラとテカッいる。
そんな魔物が俺達に向かって飛び掛かって来たのだ。
「「「「「グラビティブースト!! アクセルブースト!!」」」」」
俺達は魔物を避けながら、飛び上がり、自分たちの周りに形代を展開する。そんな中、取り残されたのが輝夜だ。
恐怖の表情で固まっている輝夜に異形のモノが襲い掛かる。しかし、すんでのところで、魔物の影から影戯が飛び出し、魔物を浜に縫い付けた。
身動きが取れない魔物に向かって、温羅鋼の専用武具の加重加速の一撃が打ち下ろされ、急所を討ちぬかれた魔物はその姿が霧散していく。
それからは飛び道具を持つ七星と陸の光芒と影戯が魔物たちの足止めをして、俺の三辰、彩夏の陽炎そして柊の氷華の爪で止めを刺す必勝パターンで魔物を駆逐していく。
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