第41話 温羅鋼のあの謎の粉は隕石だったのか?!

「「温羅鋼のあの謎の粉は隕石だったのか?!」」

「粉の混合割合や陰陽五行の術により鋼の性質や使い手を限定していたようだ」


 俺と柊が同時に声を上げ、神主もその叫びに補足してくれた。


(なるほど、俺たちが武具の錬成時に籠(こ)めた陰陽五行相生が使い手を限定したということか……)


「あれ隕石やったん?! すり潰したんは惜しいことをした!! 隕石のままやったら売って大儲けできたやん!!」


「粉にする前の隕石はまだ温羅の里に残っていったけ?」

 金に目ざとかった七星と陸が大声を上げてた。


「私たちが前世の記憶を取り戻して時、温羅の里に行ってみたけど、ふいごなんかの痕跡は何一つ残ってなかった」


「荒れた雑木林があるだけで、吉備真備の野郎!!、俺たちの現世への帰還を恐れて、徹底的に温羅の里で略奪と破壊しつくしたようだ」


 実際に温羅の里に行ったことのある彩夏と柊の返事に落胆する七星と陸。だが、神主はそんな俺たちの反応より大事な話があると話を進める。


「今の話を聞くに、古文書のハッティ人というのは温羅一族で間違いないようじゃな。しかし、その様子じゃと残念なことに、失われた製鉄技術は今の世でも再現できんようじゃな。


 吉備真備がそうだったように、山幸彦についた陰陽師たちも本音では、ホスセリとハッティ人は目ざわりだったようだ。さらに山幸彦や瘴気を使う陰陽師にとって厄介だったのは、ホスセリはスセリヒメから神器「比礼(ひれ)」と禊払いの神事を引き継いでいたことだ。


「スセリヒメ? 比礼?」

 誰かが疑問の声を上げた。


 スセリ姫はスサノオとツクヨミの娘との間にできた子だが、記紀に登場する女神でもある。いや、今風にいうと災禍を祓う聖女ってところか?


 比礼とは女性が肩や腕に掛ける細長い布で、これを振ることで呪術的な力を発揮するものと信じられていた。

 そして、記紀ではオオクニヌシがスセリ姫と結婚するためにスサノオから出された条件、毒蛇のいる部屋や毒虫のいる部屋で寝泊りさせられた時に、スセリ姫から与えられた「比礼」で毒蛇と毒虫を祓ったとされている。


 神主が話す古文書によれば、この記紀の件(くだり)はオオクニヌシ側に付いた聖女スセリ姫が比礼という神器を使い、禊払いの祭祀により、瘴気を祓いスサノオが率いた陰陽師の式鬼神や死霊から逃れた史実の比喩だったらしい。


 同じスセリの名を持つホスセリは聖女スセリ姫から名と神器「比礼」を譲られた日本列島に元々住んでいた先住民族の豪族の長であり、移住系民族のアマテラスと同系列の山幸彦(多神教)と海幸彦(一神教)の争いで荒れ果てた土地から瘴気を浄化した。


 その神聖力で山幸彦に取り立てられたが、ホスセリは恭順しながらも内心は複雑だったようだ。


 当時の陰陽師の呪術による瘴気の汚染は今の核兵器の放射性物質の汚染に匹敵する。その瘴気を浄化できるとなれば、核兵器を所かまわずぶっぱなせるわけだ。ホスセリはイス〇ンダルから持ち帰ったコスモクリーナーってやつだ。


 そういった持ちつ持たれつの関係は、海外からやってくる一神教の新興勢力という共通の敵の存在という微妙はバランスの上に成り立っていた。


 そんな海幸彦の子孫とホスセリの子孫の同盟はヤマト王朝成立後も続いていた。

 そして王朝成立後は二人の天皇が君臨することになった。記紀では山幸彦の孫の神武天皇が征服物語の中心となり、政治を統(す)べる表の支配者として君臨した。


 そして、記紀では語られることはなかったが、ホスセリの子孫は、政争により起こる呪禍から発生する瘴気祓いの役目、瘴気を澄(す)める支配者として裏の支配者として並び立っていた。


 そのため、ホスセリの子孫たちは祓戸大神(セオリツヒメ・ハヤアキツヒメ・イブキドヌシ・ハヤサスラヒメ)と称されるようになった。


 ヤマト王朝の初期の支配体制は祭祀と政治が二元化している体制で統治されていた。なぜなら、ヤマト王朝設立時では、例えば大友氏、物部氏、蘇我氏、吉備氏、秦氏などの渡来系豪族が天皇の周りの並びたち、派閥争いは熾烈で陰陽師たちが陰で暗躍し、巷では瘴気により式鬼神だけでなく瘴気に毒された自然界の諸々が魑魅魍魎として跋扈していた。


 これを放っておくと、国全体に病が蔓延し、農作物も瘴気に充てられ大飢饉が起こる。祓戸大神は瘴気を澄める天皇(スメラミコト)として、その瘴気という穢れを「比礼」と禊払いの神事でを瘴気を祓い人々を魑魅魍魎から護っていたのだ。

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