第38話 じゃあ、お伽話的な表向きの話じゃなく
「じゃあ、お伽話的な表向きの話じゃなく、古文書に書かれているきな臭い伝奇を……」
そんな前書きで始まった神主浦嶋子氏の話を纏めると次のようになる。
まず、この宇良神社が建立している場所、京都府与謝郡伊根町なのだが、伊根の根とは夜を治めるように言われたスサノオがクシナダヒメを娶り治めた根之堅洲国が示すように夜を指すときに使われ、天を治めるように言われたアマテラスが鎮座する日の出の勢いを表す伊勢とは対となる場所である。
また、浦島(うらしま)は裏志摩(うらしま)と漢字を当てることも出来、伊勢志摩の裏に当たり、丹後半島は表のアマテラスに対して裏の勢力の中心地だったらしい。アマテラスの子孫である天皇に対し、裏の部分を司る裏天皇がこの地に存在したんだそうだ。
「その裏天皇とは八咫烏の金鵄と言われる三羽烏のことですか?」
俺が質問したがその答えは否定するものだった。
裏天皇がいた時代、表の天皇は政(まつりごと)を統(つ)べており、裏の天皇は祭事(まつりごと)を統べる二人の天皇によってこの国は治められてようだ。
そして、その表の天皇と裏の天皇とが争うことになったのは、浦島子のお伽話の元になった記紀(古事記と日本書紀)にある海幸彦と山幸彦の話が元になっている。この話は日本の童話に大きな影響を与え、日本各地に「海彦と山彦」の伝承として残っている。
この神々の話はアマテラスの孫にあたり天孫降臨を果たした瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)と「コノハナサクヤヒメ」の間に生まれた三人のうちの長男と三男の話である。
ニニギノミコトはコノハナサクヤヒメの子を自分の子かどうかを疑い、コノハナサクヤヒメは身の潔白を証明するため、産屋に火を放ち、その炎の中で三柱(みはしら)の子を産んだ。
最初に生まれたの子が火の勢いが盛んだったので「火照命(ホデリ)」と名付けられた後の海幸彦、次の子が「火須勢理命(ホスセリ)」、そして火が消えかけた時に生まれた末っ子が「火遠理(ホオリ)」と名付けらた後の山幸彦であり、次男の「ホスセリ」はその後の出番はなかった。
海幸彦と山幸彦については、みなさんならご存じだと思うが、海幸彦から借りた針を無くした山幸彦の元に潮の神「シオツチ」が現れ、海の神「ワタツミ」ならばあなたを助けることができるだろうと、籠の小舟を造り山幸彦を竜宮に案内。そこで出会ったワタツミの娘「トヨタマヒメ」と結婚して、しばらく幸せに暮らすのだが……。
しかし、この宮にやってきた理由を思い出し、ワタツミに無くした針を探してもらい、タイの喉に引っかかっていた針が見つかる。
そして、その針を持って陸に帰るのだが、海幸彦に針を返す時に針に呪いを掛けた。そのため、海幸彦は呪いのため色々と不幸なことが起こり、最後には山幸彦に仕えることになる。
そして、その後、山幸彦はトヨタマヒメとの間に「ヒコナギサタケウガヤフキアエズ」が生まれ、そのヒコナギサタケウガヤフキアエズはトヨタマヒメの妹「タマヨリヒメ」と結婚し、「イワレビコ(後の神武天皇)」を含む四柱の子を産んだのだ。初代天皇の神武天皇は山幸彦の孫にあたるわけだ。
「その史実から、浦嶋子の宇良神社は後付け、本命は山幸彦が祀られる元伊勢籠神社だと思ってそっちに行ってたんやけど……、なんで、後付けの方に八咫烏どもはおったんや?」
神主から記紀の内容を一通り聞いた七星が疑問を口にした。
なるほど、七星たちが近くにいたのは偶然だと云っていたが、俺たちが帰りに寄ろうと思っていた籠神社のほうにいたわけだ。
ただ、七星の疑問はもっともだ。俺だって浦島太郎のおとぎ話が初代天皇神武天皇の祖父(山幸彦)が元ネタだとすると、なにか八咫烏や裏天皇それに温羅一族になにか関係する物があるとすれば籠神社だと思っていた。
おまけにおとぎ話の浦島太郎には古事記に記載された山幸彦にはない玉手箱など眉唾ものネタが満載だ。
「いやいや、こちらの浦島子も大概だぞ。記紀が表舞台だとすると、こちらは裏舞台だ。古文書に書かれた内容によるとだな……」
この宇良神社に祀られている主神は筒川大明神(浦島子)、そして、浦島子が蓬莱(常世の国)から帰って来たと言われる龍穴と呼ばれる洞窟がある。その洞窟がご神体「三辰」と「豊雲」を祀っていた洞窟だったのだ。
海から出て海から帰るなら、浦島子という人物の漂流の後、偶然の帰還が神格化したもの。しかし、海に出て穴から帰る?!
これは時空を超えた話。俺達だってたたら神の加護と陰陽道の次元転移術によって修羅道に迷い込んだ。浦島子なる人物は偶然六道の天国に転移した?
じゃあ、浦島子を天国に導き、または現世に戻したシオツチやトヨタマヒメとは何者だったのか? おとぎ話が事実とすれば、そいつらは陰陽師だろうか……?
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