第36話 炎も水も、なに恰好付けて自分の手柄のように
「炎も水も、なに恰好付けて自分の手柄のように言うてんの?! あほちゃう?!」
光が角度をつけて プリズムとなっているガラス状の鍔をパチンと閉じると二十六夜月や陽炎から生えていた刀身が消えてしまった。
「ちぇっ! だったら火焔斬よ!!」
「同じく氷月斬!!」
柊と彩夏はそんな現象を気にするでもなく、さらに演舞のような動きはキレを増し洗練される。
彩夏が振るう陽炎の刀身はさらに熱を帯び熱気で立ち昇る陽炎は多層化し、その陽炎で切られた触手は切り口が燃え上がり再生速度が遅くなっている。
それに対抗するように柊の二十六夜月の鉤爪は周りの空気を凍り付かせ、白銀の薄氷の刀身になり、その鉤爪で切られた触手の切り口は凍り付き、再生速度が遅くなっている。
二人が天祐の左右から触手を削り、天祐に近づいていく。初めて天祐の顔に焦りが浮かんだ。触手という八本の腕に擬態していた式鬼神を鬼人(キョンシー)に戻し、そいつらの相手をさせ、その隙に自分は逃げるべき?そんな一瞬の迷いが隙を産んだ。
ハイヒールで滑るように、目の前に一瞬で現れた不良少女風の女。この女も温羅一族の生き残りと警戒したが……。持っているのは刀身のない柄だけの刀。さっきはその武器に気を取られて流星槌の錘を切り落とされる失態を演じてたが、恐れるに足らず!!
天祐は冷静に目の前の女を観察した。
女は加速しながら、刀を振りかぶる。その刀にはやはり刀身はない。その柄を掲げて上段に構える。このまま、天祐に打ち下ろすつもりだろうが……。天祐の本体が式鬼符ならではの奥の手があった。
「今回は負けを認めてやる!! じゃが、この女の命は駄賃として貰っておくぞ!!!!」
天祐の口が耳まで裂け牙が生えた鬼の形相になると、頭がぐーっと光の方に向かい、首が千切れて、光の喉笛を嚙み千切ろうと迫ってくる。まるでろくろ首だ。
常軌を逸した場面にもお構いなく、振り上げた柄を天祐の首に向けて振り落とす。ただ、先ほどと同じように透明な鍔をずらしプリズムの形状を作り出していた。
「プリズム・スペクトル・スラッシュ!! 光芒伍閃(こうぼうごせん)!!」
光の叫びとともに柄から赤、黄、緑、青、紫の伍色の刀身が、太陽光がプリズムを通すと光の粒子の屈折率の違いから虹色の帯ができるように、振り下ろす柄から生えたのだ。
伍本の刃が天祐の頭を六枚に下ろし、その勢いのまま、体を六つに縦断する。そして、そのまま横なぎ、袈裟掛けと刀身が走り、天祐の体が細切れとなり、血しぶきが飛び散ると煙のように空気中にうすれていき、首のあった場所には式鬼符の残骸が残ってだけだった。
「あーあっ、美味しいところを光にもっていかれちゃった」
「炎、今のうちの名前は煌羅 七星(きらななせ)、七星と呼んでよ」
「私だって今は焔羅 彩夏(ほむら あやか)。そっちの病気持ちは……」
彩夏が最後までに言い切る前に、柊が顎に手を当て、探るような雰囲気で口を挟んだのだ。
「我が名は氷羅 柊(つらら しゅう)う。ここでお前に遇うとは……。これが世界の選択か?」
「ああっ、世界が破滅に向かうのは予言通り。奴らにとっての想定外は今の七星は過去のの七星を超えている」
ミラーサングラスのブリッジを軽く押し下げ、少しズレたレンズから瞳を覗かせ、七星も雰囲気たっぷりに柊に返答した。
「七星、合格だ。歓迎する」
「七星かぁ~。柊に付き合えるのわかる気がするわ?!」
拳を突き出した柊に対して、あきれ顔で納得する彩夏がいる。
そんな二人の対応に不満げにグータッチをする七星。
「で、ツッコんでくれる陣ちんは? ボケだけやと笑いどころがわからへんやん」
七星の言葉に、不満げな理由がわかるとともに、懐かしい顔に出会って忘れていた事実を二人は思い出した。
「そうだ。陣と輝夜ちゃんのほうは?」
「輝夜って誰なん? 一緒やないん?」
「輝夜っていうのは、この宇良神社の巫女。八咫烏の邪魔が入ったから、陣と輝夜ちゃんは先に拝殿に行かせたけど、この結界の張り方って大掛りだから、先に行かせた陣たちにも十二烏(とおあまりふたがらす)レベルが待ち受けている可能性が高いって、あれっ? 結界がなくなってる?! どうして?」
「ああっ、うちと陸、いや影って言ったほうがあんたらにはわかるか?がこの辺りの式者を始末したんで……」
「えっと、十人はいたはずなんだけど……」
「正確には一二人やったな」
「相変わらずやな。あんたらの武具の性能は……」
影羅陸(えいら りく)の持つ「影戯(えいぎ)」は対象の影から刀身を生やして敵を討つ。そして、綺羅七星の持つ「光芒(こうぼう)」の刀身は光そのものだ。光自身は無色透明。反射して初めて反射した物の波長の刃先を持つ。
「光芒」は七星を中心に半径一〇メートル以内の光を反射させる物、例えば鏡とか、まさに陽炎や二十六夜月の刀身に自身の刀身を反射させ、実体化させることができる。
さらに光芒自身も鍔に仕込んだプリズム機能で、最大七色の刀身に分割させることができる。平城京時代の虹の色は四、五色だったが、時代が進みニュートンが虹は七色と定義したのに合わせて、今では七色まで分割できるようになっていた。
「初見殺し……、相手にとっては死にゲー」
「柊の言う通りだよね。出会ってその日に殺される。相手に酷(こく)かな?」
柊と彩夏の自信なさそうな言葉に、しれっと七星の返答が……。
「ああっ、結界が消えた件ね?うちがここまで来る途中に道路の真ん中で、立ち塞がっている怪しい奴が居たんで、クルマで轢いてやったよ」
「いや、それは不味くねぇ? 七星」
「轢いたはずなんだけど、そいつ瘴気の鎧を纏ってやがって、反ってクルマが傷付いたんや。そんで、光芒でぶった切ってやったんや。
そしたら、そいつ式鬼符になったんで、八咫烏のスターシードやと思ったんや。
結界呪術の陣でそいつに繋がっている奴らも「光芒漆閃(こうぼうしちせん)」で殺しといた。でも、12人で陣を敷いていたんで、七人は仕留めたんやけど、四人は取り逃がしてしもうたんや」
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