第34話 「殺す!!」

「殺す!!」

「魂に刻まれた傷が……、吠える!! 癒えるまで殴り続けろと!」

 彩夏と柊は決意を新たに天祐を睨みつけた。


 天祐は両腕が在ったところには左右四本づつ、合計八本の触手が生えていた。そしてそれぞれが投げ縄のようにグルグルと廻り、うねうねとした触手の動きとは違っていた。


 今はそれぞれ五メートルほどの長さだが、天祐との距離は二〇メートルはある。


(伸縮自在か?! しかもあの動き、柄の先端に瓜(か)と呼ばれる錘(おもり)を取り付けた流星錐(りゅうせいすい)や槌(つい)と呼ばれる武具とよく似た動きだ?)


「我が流星槌(りゅうせいつい)!! その恐ろしさをその身に刻め!!」


 天祐の言葉に、彩夏と柊は顔を見合わせて吹き出しそうになっていた。


 二人とも同じことを考えていたようで、意外と早く答え合わせができた。


 そんな考えは目の前に迫る八本の触手が彩夏と柊に襲い掛かることで、すぐに置き去りになり戦いに没頭した。


 二人は左右に跳んで触手を避けた。しかし、触手は二手に分かれて二人を追尾する。四本の触手に対して二人が持つ得物は対の二本である。単純計算で迎え撃つには二つ足りない。


「ミーティア ガントレッド!!」

 柊は合体させた二十六夜月を天祐に向け、手甲鉤の部分をアクスルブーストで打ち出した。


 襲ってきた触手のうち二本は方向を変えて、凄まじい加重加速で迫るガントレッドの正面から激突した。


 ガッキンンンンン!!


 甲高い金属音を発して、ガントレッドを叩き落としたのだ。


 温羅鋼の鉤爪を受けて傷一つ無く、その場でゆらゆらととどまっている触手。予想通り触手の先端に仕込まれた錘(おもり)は温羅鋼だ。


 確信したのと同時に自分に迫る触手を、両手に填めたメリケンサックの拳でを合わせた。

 耳をつんざく金属音と両こぶしに掛かる凄まじい圧。踏ん張った姿勢のまま、数メートルも後退し、引きずった後が地面に残っていた。


 アンチグラビティベクトルシフトで体重を十倍、拳にも十倍の加重を加えていたにもかかわらずだ。


「触手ひとつひとつが式鬼神(しきがみ)だ!!」


 その衝撃は一本一本に意思があり、瘴気が凝縮し闇化していることから柊は確信した。


 一方、左に跳んだ彩夏にも左腕から生えた四本の触手が迫っていた。


「マリオネットダンス!!!!」


 四本の触手を踊るように躱す彩夏。しかし、四本の触手を相手に斥力(反発する力)を使って躱すことは体の節々が軋み悲鳴が上がる。


 マリオネットといえど肉体を持ちその関節の可動域には限界がある。相手が触手のため動きに制限が無い分、彩夏にとって不利だった。


 ついに躱しきれず腹に喰らった衝撃を緩和させるため、彩夏は大きく後方に跳んだ。


「美人と触手って、相性が最悪だよね!! でも、わたしは誰かに期待されているみたいに触手に絡み取られりしないよ!! アトラクティブ フォース!!」


 後方に跳んだ彩夏を追尾して四方から触手が襲い掛かる。それに対して対の扇を広げて胸の前で重ねて触手を迎え撃とうと両足を踏ん張り、重力制御で自分の体重を数十倍に加重した。


 その扇を重ねた一点に、バラバラの急所を狙って向かってきた四本の触手が引力(アトラクティブフォース)に引き寄せられてお互いの錘がぶつかり合いながら衝突する。


 ガッキンンンンン!!!!!!


 計算通り触手を誘導したはずだけど……。

 その衝撃を刃を食いしばって堪えた彩夏。ここから陽炎で反撃するはずが、その重い一撃に扇を立て陽炎の刃を触手に突き立てることができない。


「くぬっつつつつ!!」


 流星槌と化した式鬼神どもとグラビティブーストを行使する彩夏との力比べに、彩夏の廻りを漂う形代は次から次へと爆散して地に落ちていく。


 そして、この状態は柊の方でも同じ様相を呈していた。


 この我慢比べは柊や彩夏に分の悪い賭けだった。そんな時、人払いの結界が張られているはずの宇良神社の駐車場に真っ赤なコンバーチブル仕様のミニクーパーが飛び込んできたのだ。

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