第30話 「?!」
「?!」
神護は驚きながらも動揺はしない。伝承で知っていた温羅一族のたたら神の加護で予備動作なしであらゆる方向に加重加速移動することは目の前で見せられているだけだ。
今度は慌てることなく確実に仕留める。突き出された手がどう動くのか?見極め反応しようと神護は柊を追うのを止めて円匙を盾のように身構えた。
ただ、その構えが幸いした。
「メテオストライク!!」
柊の手元からフィンガーミサイルのように飛び出しのは氷華(メリケンサック)だ。ゼロからの信じられない加速!! 神護が反応できたのは円匙を顔面近くで構えていたから……。
式鬼符がある唯一の弱点である頭を護ることを最優先した。他の箇所が破壊されても致命傷にならない圧倒的な再生力を頼りにした防御体制。
ガッキンーーーーーン!!!!
すさまじい衝突音。氷華の加速速度と重量は隕石の一撃に匹敵する。神護はその衝撃を逃がそうと後方に跳び円匙のゆるやかなカーブが衝撃を後方に逃がし温羅鋼製の円匙は耐えきった。
カン!! カンカン!!
円匙に弾かれてはるか後方に跳んでいった氷華の片割れが後方で地面に落ちて転がる音が聞こえた。
柊の得物は左手に填(は)められた氷華のみ。さっきの攻防は手数でやや押されたが、今度は一対一で得物の間合いは円匙が長い。
神護は柊に肉薄して、円匙を一閃。柊は辛うじて左の氷華で受け止めた。一瞬の睨み合い、神護の口角が上がっているように柊には見えた。その顔は自分の勝利を確信したようだ。それが証拠に円匙をグルグルと回し、おお振りの連打を柊に打ち込んでくる。柊は左手一本の防御で次第に押されだした。
ゴッキッ!!!!
遠心力を生かした横なぎに柊の左手が押しつぶされ、手首から嫌な音が響く。周りを浮遊していた身代わりの形代の最後の一枚が弾けて地に落ちた。
手札の消滅?! あるいは誘い?!
一瞬の迷いの後、神護は柊の脳天に円匙の匙部を叩きつけるように振り下ろした。柊の狙いがどこにあろうと、印を結び形代に念を込める時間さえ柊に与えなければ……。一撃で柊の命運は尽きる。しかも鬼人の神護は休みなく責め立てることができる。
上段からの打ち下ろしは今までのように幅広の研ぎ澄まされた剣先ではなく、匙部の面を使ったものだ。氷華で受けても拳(こぶし)のどこかを痛めそうな重い一撃だ。しかも面の中心で受けなければ、バランスを崩した円匙はそのままの勢いで鋭利な縁(ふち)が柊に向かう二段構えだ。
柊は打ち下ろされた円匙を拳(こぶし)ではなく掌(てのひら)で受けることを選択する。氷華を填めたまま指を広げて円匙を受け止めた。
ガキン!! グキッ!!
円匙と氷華が激突し、火花を散らす。さらに円匙の重い一撃は氷華だけでは受け止められず、右手を添えて、親指の付け根の母指球と呼ばれる部分に衝撃を逃がそうとした。その圧力に左手と右手の手首から嫌な音が響いた。
それでも、なんとか円匙を手前に流し円匙は柊の正面の地面に突き刺さった。でも、素早く円匙で砂を掘り上げて柊の顔にぶっかけた。
相手の両手を潰し相手の視界を奪い、円匙を大きく引き戻し狙いを柊の首に定めた。神護にとっては太平洋戦争から何度も繰り返しおこなってきた手慣れた手順である。
大きく円匙を後方に引き絞り、弾かれたバネのように腰から回転して首を刈る。止めを刺そうと動作に入った神護の柊を見据える目には、柊がまともに拳も握れず、目もつぶっているにもかかわらず左パンチを繰り出そうする悪あがきだった。
「愚か者め!!」
その哀れな姿に優越感に浸り、思わず神護の口から洩れ出ていた。ただし、この間合いでは拳は届かない。まして加護を使って意表をついても、これでは大したことはできない。いや、この円匙を横殴りする間になにができる?
僅かな間に思考を巡らし残忍な表情を浮かべた神護が振り上げた円匙は……、そこから振り下ろされることは無かった。
神護が覚えているのは後頭部への衝撃だけだ。神護の顔面の中心部が盛り上がり脳漿をまき散らしながら破裂し、そこから氷華が飛び出してきたのを目撃したのは脳漿まみれの柊だった。
そして、神護の顔面から生えた氷華が柊が突き出した氷華にぶつかって止まった。
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