第21話 このまま中に入って!!
「このまま中に入って!!」
背中から輝夜の声がして、俺は賽銭箱を飛び越え、土足のまま拝殿の間を駆け抜けて本殿へ上がる階段の前に来た。
「階段の裏に回って!! そこに扉があるから!!」
輝夜の声のとおり、階段横のわずかな隙間(物置のように祭具が置かれている通路?)に潜り込むと目の前に両開きの扉が出現した。
扉を開けるとそこには岩肌が剥き出しの洞窟が……。その先は闇、一瞬ためらったが、背後からの足音に押されて扉の中に飛び込んだ。
すると、センサーが反応したのか天井に吊り下げられた裸電球が灯り、高さ2メートル横2メートル奥行30メートルほどの洞窟の最奥に祭壇があるのが見えた。そしてその祭壇の上に見えるご神体?らしき二つの三角形の形で、二つの三角形の頂点の一つが重なったものが見える。ご神体はいわゆるオリオン座の形に配置されている。
(あそこで迎え撃つ)
俺は祭壇の近くまで行き、祭壇の上に載っているのものを間近で見て驚いた。
「まじかよ?! 何でここに……」
思わず感嘆の声が漏れた。この祭壇にある二つの三角形のうち、一つは俺の専用武具「三辰(さんしん)なのだ。
背後から迫る足音が洞窟の壁に反響する。こうなると久しぶりの対面に疑問も呈する暇も感動している暇もない。俺はしゃがんで輝夜を降ろすと三辰を手に取った。
懐かしい手触りとしっくりくる重さに口角が上がる。
「輝夜! 祭壇の裏に隠れていて!!」
「大丈夫なの? あの人たち刀を持っているわよ」
心配そうに目を潤ませた輝夜に、感動的な再会に自信満々に答えるしか選択肢がない俺。
「ノープロブレム!!」
俺は三節棍の三辰の両端を持ったまま自然体でサバゲ―野郎の侵入者に対峙する。
この場所だと二人同時に攻撃するのは無理、さらにこの天井の低さから上段からの攻撃は仕掛けて来ないはず……。ここまでの思考は0.01秒。
サバゲー忍者は刀を横なぎ、その軌道上に俺は棍を十字にして受け止める。そしてそのまま捻り込むように重力を加速する。片方を上方に、他方を下方に加重加速すれば、その圧に耐えきれず、サバゲー忍者は刀を手放した。
そうだろう。重さ数トンの力で捻り上げられたのと同じ理屈だ。
相手は飛び退いて、棍の射程距離から距離を取りながら懐からクナイを取り出したが……。
俺はお構いなしに加速した勢いのまま体も捻り、片手で裏拳を繰り出すように三節棍を相手の頭上に向けて叩きつけた。
三節棍は天井に当たり火花を散らしながら天井を滑り、クナイで受けようとしたサバゲー忍者の頭をクナイごと叩き割った。
脳漿をまき散らしながら崩れ落ちるサバゲー忍者。そのサバゲー忍者の腹から刀が生え俺に向かってきた。
背後の死角からもう一人のサバゲー忍者が仲間越しに俺に向けた必殺の突き!!
俺は手首を返し持っていた棍の底で刃の先端を受け止めた。そしてグラビティベクトルシフト、ブースト。
刀を持っているサバゲー忍者にOレンジからの衝撃波が襲う。衝撃波に刀を取り落とした刹那の間に距離を詰め、眉間に向かって棍を突き立てた。
脳天に達した一撃に、棍を引き抜き距離を取ると、額から噴水のように血が吹き出し、そのまま仰向けに倒れた。
これぞ俺の専用武具三節棍「三辰」の真骨頂。二つの繋ぎを使い変幻自在に踊るように攻防を行う。三節棍の唯一の弱点といえる軽いと言われる攻撃も加重加速により補って余りある攻撃力だ。
後ろを振り返ると、真っ青になって震えている輝夜がいる。ペタリと座り込んでいるところを見ると腰が抜けたのか? とんでもないスプラッターなんでトラウマにならなければいいけど……。
俺が周りを見回すと、頭を割られたものと眉間を串刺しにされた二体の死体。片づけるのも大変だ。いや、警察を呼ばないと行けないか? 平城京の時代だと死体なんてその辺に転がったいたものだが……。どう言い訳をしようか?
後始末のことで頭がいっぱいになっていると、死体や飛び散った血や肉片が何事もなかったように煙のように消え去り、死体のあったところに、頭から真っ二つになった人型の呪符が二つ転がっていた。
俺は人型の呪符を拾い上げて、編まれた呪術を確認する。
「触って大丈夫なの?」
スプラッターが消えて余裕が出たのか、若干生気が戻った輝夜が声を駆けてきた。
「ああっ、大丈夫。これはキョンシ―だね。陰陽道反幽術改。生きたままキョンシーになるから死体からキョンシーになるようより、変換されるエネルギーが多く強力だけど、肉体に見えてもエネルギー体に変換されているから、活動を停止すると、エネルギーは霧散して物質としては何も残らない」
「生きたままキョンシー? 肉体がエネルギーに変換?」
輝夜の疑問はもっともだ。一三〇〇年前、科学のない時代に陰陽道が現世と修羅道をはじめとする常世の理(ことわり)を解明し、編みだした禁忌の術式だ。
俺は輝夜に滔々とその理を話して聞かせた。
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