第20話 八咫烏はすでに中に潜入している

 八咫烏はすでに中に潜入している可能性が高い。本殿までここから約一五〇メートル、加護の加速加重を使えば一瞬だが、輝夜さんがいるため駆け足程度だ。


「護身秘符!! 形代、輪舞!!」

 俺は内ポケットに仕込んだ大量の呪式を刻んだ形代をばら撒き、印を組んで呪詛を吐く。

 ばら撒かれた形代は俺たちを中心に衛星の軌道のように舞いだした。


 その形代の乱舞に合わせてクナイが何もない空間に現れ四方八方から俺たちに向かって飛んできた。形代が瞬間移動してクナイの行く手を阻んでいく。


 クナイが刺さった形代が禍々しい紫色に染まってクナイともども溶けていく。


「毒か? しかも即死毒……、クナイは一定の法則で飛んでくる?! これは車輪のように陣が動く車掛方陣による隠蔽の陣」


 三人が正三角形の陣に位置取り一二方位に移動しながら攻撃を仕掛けてくる。しかも感知を阻害する精神系の認識阻害結界の重ね掛けだ。


 追い詰められた俺。ついに護身形代を躱したクナイが俺の左肩に刺さって、人型の形代が紫色に燃え上った。


 俺は顔を歪めた。ダメージは形代に身代わりさせたが……。せめて隠蔽の陣を破らなければジリ貧だ。


「輝夜さん、合図するまでここを動かないで!!」


 本殿まであと五〇メートル。俺は観念して輝夜にそういうと、加護を発動させるための吟唱する。


「グラビティ・ブースト!! アクセル・ブースト!!(カッコイイってことで、彩夏を見習って英語にしたのだ)」


 俺は体重をゼロにして、加速を最大にした大ジャンプだ。クナイの出現する場所から判断して車掛の陣法の効果範囲は半径一〇メートル以内の半球内。


 一瞬でその半球の外側に飛び出す。想定外のスピードに俺の姿を見失った敵。


 高さ一五メートルまで飛び上がると、困惑した八咫烏どもの手下を眼下に捕らえる。やはり三人だ。俺は肩口に刺さったクナイを抜き、そのあっけに取られて動きが鈍った一人に投げつけた。


「ぐわああああああ!!!!」

 ドサッと回転木馬から吊るされた操り人形の糸が切れたように三人が降って来て地面を転がる。迷彩柄の上下そして頭巾で目元だけを出している。


 隠蔽の陣が破られ姿をさらけ出した手下のうち、二人はすぐに起き上がって、直刀を逆手に持って戦闘体制にとったが、胸にクナイが刺さった一人は口元から血を吐いて動かない。


 今風の恰好といえば恰好だが、サバゲーか忍者かハッキリしてほしいところだが……、と奴らの抜いた直刀は特徴あるくすんだ銀色の光沢。これは温羅一文字、量産品とはいえ温羅一族が秘術を付与して鍛えし業物だ。


 まずいな。せめて武器になる物を……、周りを見回すが掃き清められた参道は枝切れ一つ落ちていない。


「ちっ!」


 やつらの得意攻撃は、両側を杉の大木で囲まれた中での立体機動の波状攻撃。これに対抗するには袋小路に誘いこみ正面から迎え撃つしかない。俺は舌打ちをして輝夜さんを左肩に担ぐ。


「ち、ちょっと!!こんな恰好……」

「ごめん。輝夜さんを危険な目に合わないように、全開で本気出すから!! だから、この神社で袋小路になっている場所ってないか? 出来れば洞窟みたいな場所!」


 前世が鉄鋼山の穴掘り専門だったんで、思わず口から出たけど……。こんな所に洞窟なんかあるわけ……。


「あ、はい、あります」

「えっ、まじ!?」

「本殿の奥。ご神体を祀っている奥の宮に!」


 まさか洞窟があるの? 本殿まであと五〇メートルもない。俺は右手を懐に忍ばせ、呪符を掴んだ。


「閃光弾符呪!!」


 呪符からまばゆいばかりの光が一閃して、迷彩服の視界を潰した。


「アンチグラビティ!! ベクトルシフト!! アクセル・ブースト!!」

 俺は重力ベクトルを本殿に向ける。


「(?!)」

 輝夜の体重をまるで感じない。たたら神の加護は自分か温羅鋼を鍛えた武具だけのはず? なぜ、体重も加速Gも感じない?(深く考えるな。都合が良いだけだ、全力で拝殿を目指せる!)


 俺たちは重力の影響を断ち切って、本殿との万有引力を強化して、拝殿に向かって落ちていく動きがたたら神の加護の本質だ。なのに、肩に担いだ輝夜は俺と同じように重力を制御している。


 目の前に本殿が迫り、俺の疑問は中断される。

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