第19話 いきなり、柊のグーパンが飛んできた
いきなり、柊のグーパンが飛んできた。手のひらで受けた俺。加速加重の呪術も乗っかった重いパンチだ。
「アブね~!!」
「寸止めだ……。随分と悠長に構えていた罰だ!!」
「あんたさっさと三辰を探しなさいよ! 最近の死体失踪事件は八咫烏のせいに違いないんだから。瘴気の鎧を砕けるのは温羅鋼(うらねはがね)を鍛えた業物だけなんだけなんだからね!」
とまあ、クルマの中で二時間、こってり説教されたのだ。
そうこうしているうちに潮風の匂いがしだした。
海岸線にでて、目の前が開け、景勝天橋立(あまのはしだて)が見えるようになった。
「あと少しです」
輝夜の案内のとおり、神社が見えてきて、その前にあるスモークが張られたミニバン以外見当たらないガラガラの駐車場にクルマを止めた。
「皆さんのことは、父に話しているので、参拝の後、社務所にご案内……」
輝夜が前を行き、振り返って俺たちのほうに振り返って……、続いてなにか言おうとして言葉が途切れた。
「いやああああああっ!!!!」
俺たちの後ろを指さして悲鳴を上げた。一斉に後ろを振り返った俺たち。そこにはミニバンから出てきた杖を突いた山高帽に作務衣を来た爺さんが、真っ黒なスーツにサングラスの危ないヤ〇ザ風の男二人を従えていた。
「ここのお嬢さんかな? この神社は京都魔界結界の外だし、陰陽道風水的にも不要な方位だったんだけどね~~。二週間ほど前から怪しげな波動が出ていてのお……。甚だ危険なんで、調査しに来たんじゃが、当たりじゃったか~?」
俺たちも振り返って、輝夜さんを隠すように爺さんに対峙した。
「あの人たちから瘴気が溢れ出ています……」
俺に聞こえるように小声で話かける輝夜。また俺の肩越しで瘴気が見えたみたいだが、みんなも同じように感じているようで……。
「爺さん、あんた何者? この神社に何の用?!」
彩夏が扇子をパチっと鳴らして、警戒する。
「わしか? わしは八咫烏陰陽道「十二烏(とおまわりふたからず)」のひとり「天空(てんくう)」じゃ。怪しげな波動の源はその扇子からからか? いや、僅かじゃが元々あった波動とは違うじゃと!?」
彩夏はもう一本の扇子を取り出し、両手を交差し、今にも舞いだしそうな雰囲気の中、柊も両の拳(こぶし)に氷華を填(は)める。
「「十二烏とは八咫烏陰陽道のスリートップ「大烏(おおがらす)」の下にいる十二人の幹部連中じゃない。安倍晴明の式神十二天将に倣って十二方位を冠していたはずよ?」
「ならば、こいつらは敵ってことでいいか?」
言い切ると同時に、二人は人型の身代わり呪符(形代)を飛ばした。
八咫烏の組織は、ネットだと組織トップの三人を「大烏」、三位一体で「金鵄」または裏天皇、その下には「十二烏」と呼ばれる十二人の幹部、それぞれの幹部には勧誘した者の中から選び抜かれた数人の手下がいるらしいが……。
天空と名乗った爺さんの手下がたった二人のはずがない。ミニバンだと最低八人はいるか? 爺さんの雰囲気から両側にいる二人が助さん格さんに見えるが、弥七やトビ丸、八兵衛はどうでもいいがお銀さんは居てほしい……。
そうだとすると、敵は目の前の三人だけじゃない? その推測の正しさを証明するように、爺さんが口角を上げた。
「温羅の生き残りか? わしらとは鉢合わせとは運が無いのお~。すでに手下がこの神社一帯に結界を張っておる。袋のネズミとはこのことじゃ。助けはこんぞ!」
「誰もいないのを不思議に思ったけど、どうやらここは結界が張られているらしい。一般人はこの空間に入ってこられないらしいけど?」
「精神系呪術で近寄れないようにしているのかな? 私たちには反って都合が良いんですけど!」
「陣、温羅鋼の武具を持ってないあんたには分が悪い。ここは俺たちに任せて先にいけ!!」
「彩夏、柊、気を付けろよ(柊、そのフラグは禁句だとは言えないよな……)」
俺は激を飛ばすと、輝夜の手を取って神社のほうに走り出した。
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