第18話 そんな風に一週間近く過ごした後

 そんな風に一週間近く過ごした後、いよいよ、輝夜の実家、宇良神社に参拝する日だ。


 彩夏先輩、柊先輩とはあれ以来合っていないが、スマホに出発時間と集合場所が送られてきた。

 待ち合わせ場所には先に輝夜んがいて、二人で彩夏と柊を待っていた。


「陣! ほぼ一週間ぶり~、後輩のくせに血色いんだけど? 死にかけの方があんたらしいんですけど!」


 気配を殺して背後に近づいてきた彩夏先輩は俺の背中をパシィと叩いて失礼なことを言った。しかも反撃は許さないとばかりに、扇子を口元に広げたのだ。


 不意を衝かれて上に、のび太の癖にと言われた気がしたが、彩夏のあの扇子はヤバい。逆らうのは口だけにしておいた。


「いきなりなんだよ? お前に先輩面されても……」


「だめだよ。先輩なんだから、色々と頼りになる先輩なんだよ」

 輝夜が彩夏を持ち上げるから、彩夏がノリノリのハイテンションだ。


「うん、うん、輝夜ちゃんはいい子だね。じゃあ、陣は置いていこうか~!!」

「――了解」

 彩夏の言葉に、柊はクールに返事を返した。


 危なく置いて行かれそうな俺を輝夜さんが腕を取って引っ張ってくれる。ただし、座席は助手席にナビゲーターとして輝夜さん。柊と俺は後部座席に、そして彩夏は軽自動車の運転席に乗り込んで……、大学から宇良神社まで、京都縦貫道を使って約二時間。その間、彩夏と柊に責められていた。


 一つは、輝夜と俺の噂の件、そしてもう一つは俺のタタラ神の神器、三辰(さんしん)のことだ。


 噂はあの時全否定しているし、女の子が危ない目に遭っているなら、体を張るのは当たり目。護って貰った=付き合ってるっていうのは、女子が多い文学部の発想だと云うと、柊先輩も頷いてくれた。


 もう一つの三辰の行方の方だが、三辰とは彩夏の陽炎、柊の氷華と同じ俺専用の武具だ。天空の太陽・月・星(北斗星)のことを示す三辰から名付けた、形は長さ四〇センチ太さ四センチほどの温羅鋼の棍を鎖で3本連結した三節棍で、それぞれの棍は日辰・月辰・星辰と名付けられていた。


 彩夏や柊の場合はどうだったかと聞くと、前世のことを思い出してすぐに温羅の里を訪ねたらしい。


 元々人里離れた場所だったが、驚いたことにそこは古墳群として宮内庁の管理下で立入禁止になっていて、周りは金網のフェンスで囲まれ有刺鉄線が侵入を拒んでいたらしい。


 立ち入り禁止を無視して、集会時に武器を取りあげられた場所に行くと、そこは瓦礫が山のように積み上げられていた。瓦礫の大部分は土塊に還っている状況から、温羅一族が騙し討ちに遭い滅んですぐに、温羅一族が住んでいた村を破壊して、そこに積み上げられているに違いなかった。


 そんな惨状でも、タタラ神の加護により自分専用の武具の気配を探り、陽炎と氷華を見つけることは難しくなかった。ただ、そこには陽炎と氷華以外の温羅一族が鍛えた業物は何一つなかった。


 温羅鋼(うらはがね)を鍛えて造られた業物は、瘴気を祓うだけでなく、物だけじゃなく魂などの形のないものも含めて切れないものはない。


 だからこそ、個人専用の武器はたたら神の加護を受けたもの以外が使えないように温羅の呪術で本人以外は持ち上げることさえできない。まあ、岩に刺さったエクスカリバーみたいな物だ。選ばれし者感が中二心を擽(くすぐ)るギミックだろ?


 あの時集められた剣や槍は八咫烏が持ち去ったとしても、陽炎・氷華と同じように、俺の三辰や光の光芒(こうぼう)、影の影戯(えいぎ)は八咫烏に奪えるはずがない。俺や光や影が先にここに来て、三辰、光芒、影戯を持ち去ったんだと思っていたらしい。


 そういうわけで、陽炎と氷華を探すために瓦礫の山を吹き飛ばして見つけたまではよかったが、吹き飛ばしたまま温羅の里を後にしたって……、今頃、宮内庁は大騒ぎになっているに違いない……。


 だから、陣や光それに影も生まれかわっていて、いつかどこかで遇うこともあるかもくらいに考えていたそうだが、必ずしも同じ時代に生まれかわったとは限らないことに気付き、それなら、二人だけで八咫烏をぶっ潰そうと考えていたところに俺に出会ってびっくりしたそうだ。


 彩夏と柊の出会いも輝夜を通してだったらしくて、輝夜はキューピット認定されていた。


 そして、俺が三辰を持っていないことから、三辰を誰が持ち出したのかを推測すれば、裏天皇と言われた尊きお方くらいしか思い浮かばない。いや、タタラ神の加護をたった三年で習得した天才と言われた青もいたか? 長老に気に入られてて後継に指名された青なら三辰を使いこなせるかもしれない。


 陽炎・氷華。光芒・影戯と違って、俺も聞いただけの話だが、三辰は長老の持つ豊雲(とよくも)と対で存在しているらしい。だから、豊雲を使える長老や青は三辰も使えるということらしい。


 豊雲がどんな形でどんな力があるか聞いたこともないが、名前の由来は日本神話の神世二代豊雲野神から来ているらしい。


 豊雲野神は豊かで肥沃な慈雨をもたらす雲が覆う台地のことを示し、俺の三辰と豊雲で天地を現している。


 俺が前世を思い出し覚醒してから二週間余り、尊きお方が今現在どうなっているか分からないが、吉備真備の糞野郎が邪魔だと断言し、京都に瘴気が充満し、魔都と化している状況であることを考えると、血族が続いている考えるのは絶望的だろう。

 元々、皇宮内ではお立場の弱い方で、味方である温羅一族は姦計に騙され滅ぼされている。三辰と豊雲を持ち出した後、殺されている可能性が高いが……。そうなると、八咫烏の傘下の呪術師では使える者がいないため、どこかに密かに隠されている可能性が高いはず?!


 俺、彩夏、柊の三人の結論が出た。

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