第17話 大学の授業にまじめに出るようになると
大学の授業にまじめに出るようになると、俺は文学部哲学科、輝夜は民族学科を選考しているけど、選択科目が同じだと輝夜は俺を必ず見つけ、声を掛けてきて隣に座るようになった。
整い過ぎた顔立ちは冷たい印象を与えるのか、輝夜はクラスのみんなから距離をおかれていたようだ。そんな輝夜が俺には親しげに声を掛けているのだ。その様子は楽し気に笑みを浮かべて表情をコロコロと変えている。
それは輝夜に親しみ安さを感じさせ、俺たち二人の周りには同級生が集まって来るようになった。
同級生の興味は、なぜ浦輝夜が祟羅陣と仲良くなっているのか?だ。
その疑問に輝夜は、俺が自分の身を顧みず交通事故から救ってくれたからとあっさり答えていた。
柔らかく微笑みながら二人の馴れ初めを話す輝夜に、クラスメートたちは、ぽっと出の俺にやっかみと嫉妬の視線を向けてくる。
存在感ゼロの俺と存在感マックスの輝夜と出会いは使い古された少女マンガのプロローグが用意されていたみたいだ。(ほんとは前世覚醒マンガなんだけど……)
「二人は付き合っているの?」そんな女の子たちの突っ込みに「ありえないだろ!!」と俺が全否定したことで、男たちの敵意に満ちた視線が幾分和らぎ、漂っていた熱気が少し弱まったように感じた。
輝夜の顔が唖然とした後、悲しそうに歪んだことは誰一人気が付いていなかった。
熱気がゆるんだ今がチャンス。俺はこの話題を変えようと、最近起こっている死体失踪事件について話題を振った。
そこでクラスメートが話す内容が似通っているのだ。
大学構内や下宿先など、所かまわず宗教の勧誘があるらしい。さらに勧誘に付いていった知り合いが何人も行方不明になっているらしい。
京都は学生の町、元々リベラルで反体制。右翼左翼に新興宗教が蔓延(はびこ)り覇を競っている土地柄である。強引な勧誘や敵対行為で殺人や行方不明の噂はゴロゴロ転がっているが、それは都市伝説の類(たぐい)だったはず……。
しかし、今話題に上がっている話は現実で、この学部の生徒が二人も行方不明になっているというのだ。
二人が行方不明になる前に口にしていた宗教名が「八咫烏教」だというのだ。
「「八咫烏教?!」」
俺と輝夜の声が重なった。その疑問に答えた女子大生。記紀の神話の導きの神である三本足のカラスが、この低迷する日本社会を天上にお導きになるという教義で、奇跡を見せられ入信者を増やしているらしい。
「奇跡?」
輝夜の不安げな声に答えたのは男たちだ。失せ物を探したり悩みを当てたり、占い屋のように近づき、そして、手に握らせた物を透視や物体浮遊、そして手のひらを光らせたり……。
ここまで摩訶不可思議なことを目の前で見せられて、入信を進められると付いて行っちゃうようだ。
なぜ、失踪事件の内幕がこうも知られているのか?
奇跡を見せられた挙句、素質がないと入信を認められない人も居て、その人たちから噂が漏れ出てくるのだ。
「素質が必要なんだ? じゃあ俺には関係ないか?」
俺の自己完結に、意地の悪い補足説明を付けてくれる親切な野郎たち。
行方不明になった人たちは、体育会系の推薦入学の連中だったり、成績優秀者だったり、同志館でも有名人だということだ。
「浦さんは気を付けた方がいいよ!」
そんな、男たちに輝夜のリターンが決まる。
「うん、危なくなったら陣君に助けてもらうから!」
どんなリプライも受付ませんと、その瞳はキラキラしながら絶対の信頼で俺に向けられた。
どうやらこの瞬間、俺と輝夜は文学部で公認の中になったようだ。二人が一緒にいることが文学部の普通の景色になっている。
女のクラスメイトと普通に話をしている輝夜。俺をいうハズレアイテムを得たことで、天上人から凡人へと引きずり落とされたみたいだ。
二人の時に「ごめん」と謝ってみたけれども、輝夜さんは何のことかわからずきょとんとしていた。
◇ ◇ ◇
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