第14話 まさか、八咫烏?!なのか?
「まさか、八咫烏?!なのか?」
「八咫烏? なんですかそれ?」
八咫烏と聞いて、ぽかんとする浦さんにほっと安堵した俺。そこから、俺が知っていることを浦さんに話して聞かせた。
「丹後は吉備真備が秘密結社八咫烏を結成した地……。八咫烏は中国の道教の流れを汲む呪術、陰陽道により裏天皇の地位を得て、皇室を牛耳り日本を支配下に納めた。京都や奈良の神社仏閣は八咫烏の配下……。それらの神社仏閣が配置を利用して複雑な陣を組み、この京都に時空を超えて地獄道から瘴気を送り込んでいる。
そして、京都の瘴気は飽和の時を迎えた……」
浦さんは、俺たちの話をなぞるように独り言を呟くことで、自分に言い聞かせているようだ。
「その通り! 時は来た!! 瘴気が満たされたこの魔都を舞台に悪鬼外道となった死体を操る八咫烏陰陽師どもを温羅が退治して、桃太郎退治を為さんとす」
柊がカッコつけて浦さんに向かって宣言した。
「温羅の桃太郎退治……」
浦さんの言葉に今まで黙っていた彩夏が口を開いた。
「そう、輝夜! 私たち温羅の生き残りは、いずれ災禍をもたらす元凶となる八咫烏と雌雄を決することになると思うんだけど……。輝夜ちゃんって瘴気が見えるってことは、只者じゃないよね? 私たちの敵なの? それとも味方?」
車を路肩に止めると後ろに振り返って彩夏がこちらに振り向いた。その顔は口角が上がっている。
「いや、まったく知らないふうだったろ?! この人は巻き込まれただけで、瘴気が見えるのは俺の霊力とシンクロした結果だよ!!」
「いや、ゼミで彼女が自己紹介したときに彼女の出身地は丹後の神社の神主の娘って言っていたんだ。丹後は吉備真備が賀茂氏に名を変え八咫烏を結成した土地。
輝夜の瘴気がみえるという力は八咫烏の系譜によるものとしか思えない。もし敵なら、陣と誼(よしみ)を繋いでくれたんで、今回だけは見逃してやるよ」
俺の言葉に彩夏が反論した瞬間、ガッチャとドアのロックが外された。クルマから降りろということらしい。
「そんな……、私、なにも知らないです。八咫烏なんて聞いたこともないです。私の実家の神社って宇良神社なんです。宇良神社も八咫烏の一員なんですか? 私、陰陽道なんて聞いたことも無いのに……。なんか先輩たち怖いです!!」
「「宇良神社だって!?」」
彩夏と柊が顔を見合わせているが、そんな反応にも気が付かず、浦さんは車から降りてしまった。それを見て俺も反射的に車を降りて竜宮院さんを追っかけた。
「おい、陣!!」
「柊先輩!! 俺は浦さんと一緒にバスで帰ります!!」
背後から呼びかけてきた柊に手を振って、速足で行く浦院さんの横に並んだ。
「まだ、足が痛むんだけど……」
悲しそうに、そして俺を遠ざけるように歩く浦さんになんと声を掛けようかと考え、優しい彼女に罪悪感を抱くような言葉を選んで呟いた。
「あっ、ごめんなさい……、でも、なんで私に付き合って降りてるんですか? せっかく車で帰れるのに……」
「いや、俺はまだ前世のことは夢物語のような気がして、本当にあったかどうかも実感がないから」
謝る彼女に、正直に俺の気持ちを述べる。俺は修羅道に落ちて修羅どもと殺し合いを千年以上続けているうちにその辺の恨みは忘れてしまっていた。
吉備真備の裏切りは最初こそモチベだったけど、戦闘狂にどっぷり浸かるとその辺はどうでもよくなっていたみたいだ。
逆に、炎(焔羅彩夏)や水(氷羅柊)が復讐のモチベがよく続いているなと。あっ、あいつら前世から男と女の関係だったのか? そういう恨みは後を引くよな? その点俺は独り者で……、あっ、俺が恨みを忘れてバサーカーなった原因がわかったわ。
俺のは脳内で、自問自答が完結していた。
「わたし、本当に瘴気なんて、初めて知ったんです!」
「大丈夫、浦さんみたいな可憐な人が死霊術を操る陰陽師の系譜のはずがないじゃん。あの二人、これからって時に吉備真備に邪魔されて……、恋路を邪魔されて千年、積年の恨みが積もって人を信じられなくなってんだよ」
「――(二人のことは何を言っているのかわからないけど……)よかった! 祟羅さんに信じて貰えて……。先輩たちも入学式以来、あれだけ良くしてもらってたんだけど……」
「大丈夫だよ。きっと、浦さんは八咫烏とはまったく関係ないと、今頃気が付いているじゃないかな。だって宇良(うら)神社だろ。ほら温羅(うら)と発音が一緒だから、宇良神社も俺たちと同じような歴史をたどっているはずだよ」
「そんな、音が同じだけで同じ歴史とかありえます?」
「歴史上、地名や氏はその土地の地形や曰(いわく)を表していると言うから」
「確かに民俗学ではそんなふうに習いましたけど……」
「じゃ、そういうことでオケぃ!」
単なるゴロ合わせを思い付きけど、浦さんを強引に納得させることに成功した。
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