第13話 騒ぎになる前に、俺たちも逃げよう
「騒ぎになる前に、俺たちも逃げよう!!」
俺も唖然としている竜宮院さんの腕を掴んで促した。我に帰った浦さんが周りを見回してコクコクと頷いてついてくる。
俺たちは、エレベーターホールに横たわる爺と婆の死体と半壊したエレベーターホール、それに待合室や受付で、目の前で起こった出来事に硬直している人たちを置き去りにして、病院から飛び出した。
「ねえねえ、なにが起こったの? あの人たちってタンクローリーの運転者と同じ鬼に見えたんだけど? 焔羅先輩と氷羅先輩は何をしたの?」
「それは後で! とりあえず、ここを離れて先輩たちと合流しよう!!」
不安に取り付かれすがるように見る浦さんに、優先事項を伝達するだけだ。まだ、不安に揺れている目をしているが、俺が掴んだ腕に体を預けるように寄せてきた。
「そこを左に曲がって! 立体駐車場の三階に焔羅さんの車が止めてあるの!」
「わかった!!」
俺はそれだけ言うと腕に当たるふくらみを意識しないように車に向かって急いだ。無重力と加速を使えばあっという間だが……、俺たちが三階まで上がったところで、一台の車が飛び出してきた。
キキキキーッ!!!!
ブレーキ音が立体駐車場に響き、運転席の窓が開くと「早く乗って!!」と彩夏の声が掛かった。俺は後ろのドアを開けて、竜宮院さんを押し込んだ後、俺も乗り込んだ。
「陽炎(かげろう)を使ったのは一瞬のことだし、証拠隠滅も柊(しゅう)がしたから大事にはなっていないわよね」
「ああっ、俺たちがあの病院に行ったのは初めてだし、輝夜(かぐや)や陣の関係者だとは思わないだろう。陣も後で聞かれても「知らない」の一点張りで頼む」
「もう通院することもないと思うけど……」
後日、病院から問い合わせがあったけど、死体に襲われて危ない所を知らない人に助けてもらったという説明で、それ以上の追及は無かった。
防犯カメラが壊れていたため詳細は不明。
俺たちと入れ替わりに仙人のような不思議な人が入ってくると、そこから先は誰も彼も記憶が定かでははなくなるのだ。ハッキリしているのは、ジジィババァの死体だけじゃなくガードマンの死体も忽然と消えていたことだけだ。
ロビーにいた数人はその仙人が出ていく時に紙を人型に切ったものがひらひらと仙人についていったという話だが、防犯カメラも故障しているし肝心な死体がないため、死体が勝手に動き出したという事実が曖昧すぎて捜査はまったく進んでいない。
この話は後でテレビの報道で知ったのだが、仙人ぽいとは八咫烏の影が見え隠れする。それにしても巻きこまれた府立総合病院には気の毒なことになったものだ。
車の中で浦さんに問い詰められて、彩夏はペラペラとしゃべっている。
「そんなことより、なんなんですか! あのゾンビの鬼は?!」
「ああっ、輝夜ちゃんはあれを見るのは2回目になるのかな? あれはキョンシーっていうんだ。中国では道教の秘術で死人が蘇るの。そこは映画とかで知っているかな?
日本にもあの手の怪異はあってね。天道や人道以外のあの世から吹き出す瘴気に死体が当たるとあんなふうにキョンシーになるのね。ここ京都は現世の外に存在する別次元と繋がる場所がある特殊な土地柄、瘴気があちこちで湧き出して滞っているのよ」
不味いな~、こいつら、浦さんを巻き込まないように「禁則事項」という都合の良い言葉を知らないのかよ。そんな心配をお構いなしに話が続くのだが……。浦さんの出身地の話がでたところで雲行きが怪しくなっていく。
「瘴気っていうのは、あの黒い靄(もや)みたいなものですか?」
「そうそう、輝夜ちゃんはあれが見えるらしいね。私たちでも気配だけで、死体に取り付いて初めて認識できるのに。なにかしら生まれに因縁が在るのかもね。生まれは京都?」
「確かに京都ですけど……。丹後になります」
「「丹後!!」」
彩夏は浦さんの出身地を聞いて絶句している。そして、今度は助手席の柊先輩が警戒するようにある言葉を口にした。
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