第12話 俺はポケットから人型の呪符を
俺はポケットから人型の呪符を取り出した。
「身代わり形代(かたしろ)展開!!」
俺の周りに4枚の形代が円を描いて漂っている。
「反重力場!!加速加重!!」
俺は自分にかかる重力をゼロにして、キョンシーに向かって一気の加速、右こぶしに10Gの加重をのせて右フックを右のジジィの顔面にぶち込んでやる。後方にぶっとんだジジィには目もくれず、その勢いのまま体を一回転。左の裏拳に加重をのせて左のジジィを左の壁に縫い付ける。
さらに右足を軸に回転の勢いのまま、奥のババァに左足でローリングソバットを決める。
千年以上の修羅道での戦いで、俺は手足に数十キロのバーベルを括り付け、その重さを自由自在に変え、相手に甚大な打撃を加える最適解の動きをはじき出す。全身がアメリカの不良が使うブラックジャック(革袋に砂や鉛を詰めたナップザック状の武器)化した破壊兵器だ。
360度の反重力制御が決まった! そのはずだったんだけど……。
コンクリートの壁にめり込んだキョンシーは瞳に憎しみの炎をもやし、瘴気をオーラーのように纏い映像の逆回転のようにピョンと立ち上がると、俺に掴みかかるように両手を伸ばしてきた。
キョンシーに纏わりついた瘴気の鎧、その頑強さはやわな拳では歯が立たないようだ。
すでに、形代は加速、右手、左手、左足の損傷の身代わりとなって、その役目を終えて青い炎で燃え尽きている。
捕まる訳に行かない。奴らの腕力は人の頭を握り潰す。体に掛かる負荷ギリギリに耐えられる加速で、俺は後ろに飛びのいた。
「ダサすぎ!! カッコつけて最小限にした形代は使い切って、誰一人仕留められていないなんて、カッコ悪すぎ!!
これからは私のターンね。アンチグラビティベクトルシフト!!」
俺が飛び除くのと入れ替えに、飛び込んで来たのは大声で俺を貶(けな)した彩夏だ。
周りに形代を侍らせ、手に持っていた扇子をパチッと鳴らすと折り畳みナイフが飛び出してきた。
「懐かしい~ 仕込み扇子だ!!」
さっき半分しか開いていないと思ったけど、扇子の半分にはダガーナイフが仕込まれていたのか。
彩夏は俺に迫るキョンシーの腕を、陽炎(かげろう)のように揺れる刀身で切り飛ばしていた。
助かった。逃げる速度は生身の肉体のため制限していたので、キョンシーに捕まる寸前だったのだ。
「アクセル!! ブースト!!」
彩夏は三人のキョンシーの中に加速で踊り込むと、キョンシーたちの衝撃破を伴う攻撃を紙一重で搔い潜り短刀をそれぞれの額に突き立てた。
「破瘴暫!!!! 三連刺突!!!!」
加速、加重を駆使した体術。技の流れは女の子らしく優雅でしなやかに。しかし、瘴気の鎧を引き裂いて、キョンシーの唯一の弱点、額を確実に仕留めた。
動きが完全に止まったキョンシーたちの体から瘴気が浄化されて天に登っていく。毒気が抜けたように体も凋(しぼ)み、禍々しい角(つの)も消え、普通の爺さんやばあさんに戻って崩れ落ちた。
「倒したのか?」
「当り前よ。瘴気を祓えるのは温羅印の業物(わざもの)だけだから!!」
彩夏は自慢げに手に持っている扇子の仕込み刀を掲げた。
炎の持つ専用武具「陽炎(かげろう)」だ。
そこに背後から声が掛かる。
「未熟者!! 雑魚相手に派手にオーバーキルだ……。いかにこの左手が瘴気に当てられ疼くこうと、正体を隠さなければならぬ温羅一族だぞ。だが……」
氷羅が右手でポケットに入っていた左手を抑えつけていた。もちろん演技で、刹那の瞬間、ポケットから手を引っこ抜くと空(くう)に向かってを拳を突き出した。廊下に設置されていた防犯カメラが凍り付いた。
その冷気は防犯カメラに接続されているケーブルを伝っていく。きっと録画ディスクまで凍り付いているに違いない。
もっとも、この光景を目で追えたのは俺と彩夏だけ。となりで呆然としている浦さんは「温羅印の業物って?」と呟き、扇子でも隠しきれないドヤ顔の彩夏でさえ何をしたのかもわかっていないと思う。
ドヤ顔の彩夏を氷羅が腕を引っ張って病院からさっさと出ていく。引っ張られることに抵抗しながら彩夏はローライズのジーンズの後ろに扇子を差し込む。もう一本の扇子がチラッと見えた。確かに炎は二刀流だった。
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