第15話 じゃあ、私と同系の誼(よしみ)ということで

「じゃあ、私と同系の誼(よしみ)ということで、これからは私のことは輝夜と呼ぶこと! 先輩たちだってそう呼んでるし」


「いや、ムリムリ! 知り合ったばかりだし、学校で会ったりした時に、名前呼びは恥ずかしすぎる」

「恥ずかしい? だったら私も陣君って呼ぶから恥ずかしくないでしょ」


 いきなり、お互いを名前呼び?! 輝夜さんは恥ずかしくないのか? 


「だって、陣君ともっと親しくなりたいんだもん。ねえ、知ってる。竹取物語のかぐや姫の「かぐ」って鉱山を表しているんだって、鉱山すなわち火を使った製鉄業とゆかりがあるらしいの。

 私の輝夜って名前はかぐや姫から取っているから、製鉄業の温羅一族と同系譜かも?」


 俺ともっと親しくなりたいだって? 後の屁理屈はどうでも良くなっていた。だって、もう陣君って呼ばれているんだぜ。


 相手が言っているのに拒否する理由なんて思いつかない。


「わかった。輝夜さん。これからそう呼ばせてもらうよ」

「うん。すごく新鮮だね」


 なにが新鮮なのかわからないけど?そう言って、ほほを染める輝夜さん.

 俺は緊張して、それ以降、バスの中でも別れ際も、陣君って呼ばれる度に「あっ」「うん」「そっちは」って「輝夜さん」って呼ぶことはできなかった。


◇ ◇ ◇


 彩夏と柊が残った車の中。


「行っちゃったね。柊がマジきつく当たるから!」

「俺は他人を信じない。貶めようとするやつが多すぎる……」


「はいはい、騙されて落とし穴に落ちた挙句、一三〇〇年も殺し合い三昧だもんね。それにいても、あの二人釣り合ってないわ~。輝夜ちゃん美人過ぎ!! だけど趣味悪すぎ! 月とミジンコだね?」


「彩夏、それを言うなら月とすっぽんな。しかし、ゼミじゃあなんとも思わなかったけど、瘴気を前にしながら、あの気品溢れる只ならぬ雰囲気。巫女として最上級の素質を感じる。本当に八咫烏と無関係とは……? 宇良神社……、一度調べとくべきか?」


 彩夏を咎め、難しい顔でそれっぽい雰囲気を醸し出して柊が呟いた時、彩夏は柊を無視してスマホを弄っていた。


「この車、禁煙だからね! 宇良神社、別名浦島神社。天橋立の近くだね。浦島太郎を祀っている神社だって、浦島太郎って実在の人物?! ってあれ神様?!」


「祀っているのはアマテラスじゃないのか? だとすると八咫烏に所属していないのか? いや、結論を出すのはまだ早い」


 スマホで検索を始めた柊は、となりの少女がマヌケなのを憐れむように見た。


「宇良神社の創祀年は八二五年、伝承によると浦島子が四七七年に美婦人に誘われて常世に行き、三四七年を経て帰ってきたという話を聞き、浦島子を筒川大明神と名付けて、社殿を祀ったのが始まりらしい。さて、ここで問題です。八咫烏は何年に結成されたでしょう?」


「吉備真備に騙されて私たちが修羅道に落ちてすぐだから、天平時代?」


「西暦で言うと七四四年とされている。結成後八〇年以上経って建立されている。もちろん、結成後大分経ってから加入した神社仏閣はあるだろうが……、すでに、八咫烏の本拠地は京都の賀茂大社に移っているため、わざわざ発祥の地といえど、僻地の丹後に拠点を造る可能性は低い。

 さらに祀られているの浦島子以外に月読命(つくよみのみこと)と祓戸大神(はらえどのおおかみ)」


「記紀にほとんど記載がない月読に祓戸大神はアマテラスからの系統が違う、どちらかと云うと私らが慕うスメラミコトに繋がる神だね」


 二人は軽率だった対応にお互いに非難の視線を向けた。そして、面倒くさそうなので、先に折れることを選択したのは彩夏だった。


「はいはい、輝夜ちゃんから詳しい話を訊かなくちゃね。会ってくれるかな?」


◇ ◇ ◇

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