第2話 夢の中の俺は藍染のような薄汚れた作務衣を着て
夢の中の俺は藍染のような薄汚れた作務衣を着て、普段は鉄鉱石を掘り出している鉱山の入口付近の広まった場所にいた。目の前には上等な料理が並び、酒樽が次から次へと空になる。
ああっ、これは俺たちの願望が実現する祝いの宴だ。
そこにいたのは俺だけでなく、同じような恰好をしたものや、平安時代の貴族のような恰好をした者など、髪型も髻(もとどり)というちょんまげを立てたものや、俺なんかは長髪を後ろで荒縄で縛っただけだ。
そういえば、作務衣も腰のあたりを荒縄で縛っていて、とても現代の恰好とは思えない。時代劇で見る下層民のような恰好をしていた。
「いよいよ、我らの時代がやってくる!」
「長く辛い時代だったが、我らのスメラミコト様が天下に姿を現し、天皇陛下と肩を並べて祭政を執り行うことになるのじゃ!」
「いやあ、めでたい!」
「わしらも、スメラミコト様に従い、この現世(うつしよ)を跋扈する悪鬼や邪鬼、魑魅魍魎を討伐するのじゃ!!」
「「「「「おおっ!!!!」」」」」
目の前の料理に舌鼓を打ち、周りはみんな興奮していた。
それは俺も同じで、悪鬼邪鬼を生み出す元凶である瘴気を祓える現人神(あらひとがみ)である裏天皇と呼ばれる尊き人が、表の天皇と肩を並べ祭政を統(す)べることになるお披露目の宴を開くと、裏天王を崇(あが)める俺たち湯羅(うら)一族がここに集められているのだ。
酔いが回って興奮した中、武装した一団が到着した。
有象無象の一団の中から、ひときわ身分の高そうな人物と護衛するように取り囲む三人の武人。彼らを以前見たことがある。
あれは、近隣の村に住む犬飼健(いぬかいたける)、猿飼部の楽々森彦(ささもりひこ)、鳥飼部の留玉臣(とめたまおみ)と言ったはずだ。
この三人は、後に昔話桃太郎(桃太郎のモデルである吉備津彦命と吉備真備は同一人物)の伴をした家来の犬、猿、雉に言い換えられて語り継がれているのは、俺が前世を思い出した後で知った話だ。
そして、その集団が俺たちを左右に割ると、その割れた道を通って高貴な身分の男が正面の壇上に上がった。
「皆のもの! よく参られた! わしが三条大臣の吉備真備(きびのまきび)だ!」
「「「「「うおおおっーーー!!」」」」」
男の名乗りに周りから歓声が上がった。
吉備真備、わが吉備国(古代の岡山の地名)の長にして、二度も遣唐使となり唐の儒教や道教の学を収め、陰陽道の開祖にして大和朝廷の天皇に使える側近であり、俺たちに温羅一族にとって絶対的なヒーローだ。
そんな男の凱旋帰国だ。
「わが一族に聖武天皇から天皇を守護する集団を作るように勅命が下った。天皇は今、藤原家へ権力が集中することを憂慮されておられる。また、藤原家が天皇にとって代わるのではないかと危惧されておる。
わしら吉備一族は京都で加茂一族と名を変え地下に潜り、裏から天皇を支える結社「八咫烏陰陽道(やたがらすおんみょうどう)」を設立することにした」
当然、今までも裏天皇と呼ばれる尊いお方を影から支えてきた温羅一族も「八咫烏陰陽道」に含まれることになる‥‥‥。
そう信じて熱狂していた俺たち温羅一族は、吉備真備が発した次の言葉に冷や水を浴びせられたように静まり返った。
「しかし、あのこざかしい藤原氏は祭事を統(す)べる裏天皇と縁(えにし)を結び、わが吉備一族の力を削ごうとしておる。
なにせ、裏天皇は祭事を通して瘴気をお払いになる力をお持ちのお方……。瘴気から生まれる鬼を使役し、瘴気を贄に呪う呪詛を生業にするわれら吉備一族にとって邪魔な天敵だ。
当然、瘴気を祓う破邪の刀鍛冶を生業(なりわい)にし、裏天皇を守護するうぬら温羅どもも吉備一族そして八咫烏陰陽道の朝敵ぞ!!」
温羅一族が放心状態から頭が冷え冷静さを取り戻し、心が怒りに塗り潰される刹那の間は、真備に同行していた陰陽師たちにとっては十分な時間だった。
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