第13話 炎vs炎


 最終ポイントが迫ってきて、前を歩いていたユキリから、目を閉じろと命令を言われたので、仕方なく。

自分の目は片手で隠しながら、ヒサの涎を垂らしておそらく今も見えてないであろう目にも、自分の片手で閉じてやる。


ヒサを支えながら歩く、その行為による自身のスタミナ的にも、かなりいい距離を歩いた事もあって、自主的に止まろうかと思いかけたが、境界ギリギリにユキリから停止の命令があって、安心して止まった。


そして少しの期待と少しの不安感もあって、その時を、今か今かと待っていたが、


「ホッケーだ!あ、もう目開けていいぞ。」


「おせぇよッ!」

唐突なネタバレに、口をついて出たツッコミ、唐突なポンコツ発言で少し強めな言葉が止まらなくて、初対面の人に初めてこんな声を出した。


目を開けて、目の前には当然ながらホッケー台があって、少しだけ安心した。

実は今の声がブラフで別のゲームがあったりしたら、ツッコミを外した恥ずかしさとショックで、ゲームを投げ出して三日三晩無人島に逃げこむところだった。


そんな妄言めいた世迷言の話を考えていた時には、

今まで目を隠されていたのに、今まで見ていた眩しいくらいの豪華絢爛な光から、急に実家の自室みたいに安心する、柔らかい光に変わったことに驚いて目を覚ます。


「なになにッ?…もうご飯?」

「違う!、食いしん坊か!」


ヒロシとヒサが驚いて目を回す、その場所はは、このゲームのメインホールとしてあるカジノから、少し道を外れて長い一本道を歩くとある、一枚の暖簾を挟んで造られた、ゲームセンターと旅館が混ざったような景観で、レトロゲームに特化したサブホールだ。


あっちのホールでは場違い感があった、ヒサの自作ハッピも、ここの旅館のような雰囲気もあって、何故か似合っている。


「え?ここどこ、別のゲームに行ったの?」

今まで歩いた事の記憶をなくした、ヒサがまるで素っ頓狂なことを言う。


「いやさっきそこの暖簾を顔に被って、通ったばっかだろ、」

「ああ、そう言えばそんな記憶もある…か?ユキリちゃんが言うなら、そうだった気がする。」


第6ゲーム、テーブルホッケー、


「ってかコレ、人数差バリバリにあるだろ。」


このゲームは、簡単に説明するとテーブル版のホッケーだ。

テーブル全体からわずかに空気が出ていてパックが摩擦なく早く進むようになっている。

そしてそのパックをスマッシャーとかなんとか言う、なんかカッコいい名前のものを使って、テーブルの対称にある一つのゴールに入れるゲームだ。


もちろんだが、ゴール前を手で塞いだり、バックとかゲームに関係ないもので防ぐのもだめだ。まあそこに関しては、電脳世界だ、出来ないようになっている。


ヒロシ自身、どうしても人数差ができてしまうから、少しでも人数差はないものを探そうと言ったはずが、目の前にある、ユキリの連れてきたコレは確実に人数差が生まれるゲームなはず。


その言葉に、ユキリはその小さい体を目一杯に使って、煽りアピールしてきた。

「おいおい、バトルの相手は、男と麗しい花々だぞ、それが一対二程度で、文句があるのか?」


電脳世界の設定はゲーム毎に変わるが、実験的な世界以外では、多分人間の個人差みたいなものはもちろん、力も変わらない、その場合男女の関係はなく、ただただ二対一の状況になっただけでもある。


もしも、それがないと仮定しても、目の前の

花々は目が鋭く、何やら戦闘力高そうな華々に見える。

そして作戦会議までしている。

「マジだ。」


ビーーと古い電子音みたいな音が鳴って、ランプがついて、それと同時にテーブル全体から空気の音が聞こえ出した。

ブーーーーン


そして、皆んないつの間にか、多分フィールドに入った瞬間、個々の個性に合わせた浴衣姿に変わった。

ヒサ、黒色にピンク色の花が描かれた、浴衣姿

煮卵みたいにつるんとして綺麗な足が見えるミニスカ浴衣だが、何故かハッピだけは上から来たままになっている。


ユキリは元々、たぬき獣人の姿に合わせて、和服だったからそこまで変化は無かったが、全体的に水色のしっかりとした浴衣になった。

ヒロシはオレンジ色の浴衣姿だ、なりそこないの金髪の長髪を後ろで結んで、いつものシルエットから少し飛び出ている。


互いが互いにその新鮮な姿を堪能した後に気づいたが、一人につき、ロッカーが一つずつ埋まった。

今まで着ていた服は消えて、どこかに行った。現状を見るに、ホールに入ってゲームをし始めると、自動的に変わるんだろう


謎は無くなった。


「ヨシ、やるぞー。」


もう一度ビーと鳴り、パックが真ん中に配置された。点数カウンターも互いに、ゼロの形に光り始めた。


体を伸ばして、二人の手がテーブルの中心に伸びる。

先に打ったのはヒロシだった、がこのゲームで人数差がある場合、先に取るのがいいことか分からない。


リーチでは二人のスピードに届かない事を考えていた、ユキリがスタートダッシュはヒサに任せて、後ろで構えていた。


カッ!

打ったコースは、ゴールに右から刺す形に曲がった。


「っとと、曲がった、もしかして結構やってたのか?」

カッ

ヒロシはギリギリの所で防ぎ、声をかけながら軽く打ち返した。


「まぁな、ゲームでやったのは久しぶりだけど、ゲーセンでやりこんだヨッ」

カッ

分かっていたのか、強さを再認識したのか。

ヒロシの返しにニッと口元を逆のへの字にして、答える。

今度は壁に当てて、ゴールを狙った一撃。


コカッ、パックが2回以上跳ねると、予想がしづらくなるので、壁に当たった瞬間、手を伸ばして動きを止める。


「じゃあやっぱり、二対一は俺が二でいいんじゃないか?」

ヒロシは、さっきの動きの真似をして、パックの当てる場所を変えて、パックの端っこを弾くように打つ、ヒロシの手を振る幅が大きくなって、回転がかかったパックはそのままカーブになった。


「まだ言うか、男のくせにザコザコか」

自分の打ち方には簡単に対応して、パックを止める。今度は瞬時に攻撃し返す事はなく、一時的に自分の陣地で止めた。


二人の攻防は一見簡単そうに見えるが、そのすぐそばから見ればその難しさがわかるだろう、踏み込めないライン上を蛇行していて、手が届くかと思って伸ばした瞬間には、手の届かない場所に引っ込んでいってしまう。

その戦闘の間ヒサはウロウロしていた。


「やるぞ、」


だがユキリが一言、風の音もあって、ヒロシには聞こえないくらいの小さい声で合図を出すと、瞬時に動いた。


ヒサが打つのか!と思ったら、


ヒサが振りかぶって、その横でユキリも振りかぶっていた。

ガッ!

一つのパックを、二人で打ってきた。

単純計算で2倍の威力、速度、


流石に全力で相対しなくては、反応する事も困難なパック。


だが一時的とは言え、こっちにも構える時間があったから、真正面から向かえる。


白いパックが形もよくわからなくなる速度で、手の前に迫ってきた。

ガッ……と音がしない。


ヒロシの正面から迎えていたスマッシャーは、当たると思ったのに、スカッと空を切った。


ヒサとユキリはリーチの差があった、同時にスタートしたとしても、ヒサの長い手足の方が先に行く、同じくパックをヒサの手が強く打つ。片方ユキリの手は弱く当たる、ことでパックに回転がかかり、曲がる。


先制はヒサとユキリペア、見事一点上げた。

0:1


これでユキリの事も分かれば、いいんだけどな。


裏の思惑を思い出す。


学校の中でも、静かにつけてたんだ、何か言いたくない事情があるのかもしれない。

だったら、ゲーマーを自称している本人に合わせて、ゲームで本音を聞き出す。


さっきから決めていた事だったはずが、無意識のうちにこのゲームに暑くなっている自分がいた。

ユキリもこうなって、自然と話してくれたらいいんだけどな、それにはもっともっと、熱くさせなくちゃな。


リーチや力は自信なさそうだが、カーブや壁当てを多用する技巧派、まさにゲーマーって感じのプレイスタイル。


カッ、カカ、カッ

1:1


パックをゴール前で止めて、味方に指示を出す、度胸もある。


でもカジノのゲームでは、コインを落とすって事は、別のゲームをやってたのかな、

カッカカッ、カッ!

1:2


電脳世界のアクションはうまい、多分慣れているんだろう、パックが予想外の動きをした時にも、かなり早い身のこなしで追いつく。


カッ!

2:2


ゲーマーを自称するって事は、バトルものか

でも力は、初心者のヒサの方がある

「うおーー!」

「おりゃーー!」

「?…おーイエーー!」


2:3



ユキリとヒロシのゲーマー同士が全線で激しく戦いあっている、それは変わらないが、ヒサの目もだんだんと二人に慣れてきた。


ユキリが取れなかったパックをヒサが、止める体制になって、ヒロシは更に点を取ることが難しくなった。

ユキリはリーチの差があって、前線では打てなかったが、テーブルの横まで動き、リーチの差をなくした。がヒロシはその場所を待っていた、横にいると言う事は、もう片側の場所は横から手を伸ばしても、ヒサやヒロシなら届くかもしれないが、ユキリには難しい

ユキリの届かない端っこを狙って、パックを通す。


「ヒサ!」

ヒサに守りを任せた、その一心でヒサの名前を言ったのだが、それが間違いだったのかもしれない。

もしかしたら、一回でもヒサを名前で呼んでたらこうはならなかったかも知れない。


「ヒサって呼ばれた!」

ヒサは憧れの推しユキリから名前を言われたことに、爆発して喜んだ。

そして熱くなってしまった顔を冷やすために、顔に手を当てた、それと同時にブロックの手を退けた。

一点ポイントが入り、数字のカウンターが古い形式数字を作るの7本の棒で、3の形を作った。

3:3


一点入って、味方も対戦相手も3人して顔を抑える。異常な光景だが、一人は心底幸せそうな顔をしていた。


時間もいつの間にか、経っていて制限時間はあと、1分くらいしか残っていない。

このままゲームセットまで行ってしまったら、3対3で結局は、ドローになってしまう。


それだけは避けたい、二人のゲーマーにより更に温度の高い火がついた。


「アターック!」

青い炎に包まれたパックが、炎と同じ色の自陣を抜けて反対色のフィールドで、猛威を振るう。


「カウンター!」

それを読んでか、スマッシャーがパックの炎を掻き消し、また再燃させる、夏の味覚のようで、反射する太陽みたいなオレンジ色の炎で。

一撃に込める力が、あまりに激しくて、炎がテーブル全体に広がる、がテーブルの下から吹く風が、ファイヤーを巻き上げて演出の一つとして肩を貸す。


風が吹いた事で炎から相手の顔が見えた。

ニヤッと。


「今度は上がるなよ、もう一回だ!ヒサ。」

「ハ、ハイ」


二人は、手を大きく羽ばたかせ、一気に翻す。

「「カウンター返し!」」


だが最速で放たれたカウンター、それを返す事など、ほぼ不可能だ。

真正面からパックに当てれば、力に耐えられなくなりパックは上に跳ねあがる。もうその後時間は残っていない、

ほぼ不可能なら可能性はまだあるって事だろ、正面からだと弾ける、ならパックにクロスでぶつけて、左右から挟み込むように打つ。


挟み込んだ事で、3人の力が互いに反発し、ただ一点、圧が加わっていない方に逃げる。

縮められたバネが、勢いよく戻るように、パックは無人のゴールに、放たれた。


3:4

ビーーー!


ユキリ、ヒサペア勝利。


二人は試合終了と同時に、テーブルの下に疲れて倒れて、ヘロヘロのままハイタッチをした。

ハイタッチに見えて、それは互いに倒れそうな互いを支えようと、差し出した手だったりするかも知れない。

そこにヒロシがゆっくりと歩いて現れた。


「負けたよ。本当に強かった、ユキリって、めっちゃゲーム好きなんだな、」


「…好きじゃ…ねぇよ。」

相手を称える言葉だし、的を得ている言葉だったはずなのに、ユキリからしたら違ったらしい。


でもそれが本音だと、気づかなかったヒロシは、もう一度同じ事を聞いた。するとまた顔を赤くして「好きじゃねぇよ!ゲームなんてッ」て否定する。


「そうか仕方ない…ヒサほら、さっきのゲーム中の楽しそうな顔、見せてやれよ。」

「ん?ハイ、コレ」

ヒサの差し出したパネルの中には、試合中のヒサの角度からでは確実に見えないであろう、正面から少し上から見下げた視点の、満面のユキリが写っていた。


「なんで撮ってんだよ!」

ユキリは至極真っ当な事で、声を荒げる。

言い出したのは俺だけど、ヒサの奴、本当にとってやがった。


「まあ、コレでゲーム嫌いは、無理あるだろ。」


「うっせぇ!嫌いなもんは嫌いなんだよ。」

子供が駄々をこねるみたいに、ユキリは叫んだ。

見た目相応だが、子供の有り余る元気さと自分の思い通りにいかなかった時の、パワフルさを差し引いたとしても、かなり大きな声で、


試合に負けて、相手がそのゲームは嫌いだと言われた、ヒロシにとってはよく分からない雰囲気の中、取り敢えずホッケーのゲームは終わった。


めでたしめでたし……でも続く。

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