第14話 STKの証言
その時は、3人で休憩所まで歩いていた時に起きた、唐突な出来事だった。
ユキリは試合中も小さい体のため、一番頻繁に動き回る必要がある、今の足取りもどこかフラフラだと言うのに、ユキリは率先して二人の前を行き、先頭になり歩いていた。
一方ヒロシとヒサは、歩いていくほどに一歩二歩と、ユキリとの差が大きくなってきて、やがて距離的に小さい声の会話なら聞こえないぐらい差が広がった、それに気づいたヒロシが足を少しだけ早めて近づこうとすると、それを阻止するヒサの手が、ヒロシの手を引いた。
「ん………」
不思議そうにヒロシが振り返ると、ヒサの顔を見て、何を意味するのか察する。
運動後の汗が伝う顔で、少しはにかんだように見える、角度にして15°下を見た困り顔。
「ヒロ…ちょっと良い?」
袖とか帯とか、和服には垂れ下がった場所が多くて、掴みやすいところは他にもあったであろうはずなのに、わざわざ手を引かれる。
ヒサは過去の失敗があり、人とコミュニケーションをとるのが苦手だ、だから特に言いたく無い、聞かれたくないことを言う時は、決まってボディランゲージで伝えようとしてくる、そしてコレは不安な時の反応、
「どうした?」
ヒロシはつんのめった足を止めて、コレから何がきても物腰柔らかく受け止められるように、眉を平坦にした顔で声を返した。
場面は少しだけ進み、疲れ切った二人の花々のもとにアイス入りの紙カップを持った、笑顔の男が現れた。
そこは今までいたような、古くとも熱くなれるレトロなゲームセンターの集いとは、一切が別に作られていた、サブホールの枠外にある一室に足を踏み入れる。
ヒロシの足が少し高い段差を超えて、床に足がつくと、ガサっと音がする。
少しだけ中に空気が入って膨れた、
数歩歩いただけで、ここまで音が出る、この場所に少しだけ造りの雑さを感じて、部屋の端っこを見れば、表畳が針も刺されずに緩く敷かれていた、さらには表畳の一本一本が変に光沢があり、プラスチックみたいなグラフィック。
今も昔も日本で生きる、日本男児にすれば、一目で分かる、日本文化の雑さ、だがソーシャルゲームには必ずと言って良いほど存在する。
むしろそれすらもゲーマーなら、海外ゲームのなんちゃって日本文化をも、このゲームのおかずにする。
それでもこの一室にある雰囲気だけなら十分すぎる、未完ながら完成した、安楽できる和の一室、そこにさっきまで戦っていた者たちが集った。
「おおぉー〜!何それ?」
熱くほてった体を、体の中から一気に冷やしてくれたり、優しく冷ましてくれる、それすらも食べるペースで変えることができる、今最高のご褒美に、ヒサが一番最初に釣られた。
「やっぱ、ここは旅館風の場所なんだな、近くのクレーンの景品であってさ、獲ってきた。」
ヒロシは持っていた三つのアイスを、落とさないように慎重にゆっくりと渡す。
自分のアイスは片手で持ち、二人に渡すアイスは、小さいアイスとはいえ、紙のカップに入っていてかなりの大きさになっているが、ヒロシの左手の中には収まっていた。
左手で持った二つのアイスを順に、一個はヒサに、もう一個はユキリに渡した。
「ありがと〜〜、」
「そんなのあったか?まあ良いか、サンキュー。」
ヒサは異様に震えた声で答え、ユキリはゲーム内のアイスが見慣れなくて、最初だけ言葉尻に疑問符をつけたが、目の前に差し出された、ミルク色の冷たくて美味しそうな、アイスに些細な疑問はどうでも良くなって受け獲った。
しばらく堪能して、
この一室で、疲れてクターっとした、花々。
足から、首から、身体全体から力を抜いて休むように倒れさせる。
さっきまで動きで冷ましていた、体が今は体力も尽きて、もう指一本も動けない、この無気力な疲れに何も抵抗ができない。
体はむわむわとした熱気を帯びて、頭をボーとさせる。
気付かぬ間に、汗が浴衣の影の中から、華奢な腕や細いお腹に汗が滲んで、上から下に一直線状に水滴を垂らしている。
浴衣が扇状的にはだけて、髪もしっとりとするぐらいの汗だく、あまりの疲れに手がもつれて、アイスを口元につけたまま、惚けた顔をする面々。
目の前でそんな姿を見て、妙な色気を感じてしまいそうになる、いや、なってはいる。
だが強靭な理性とゲームを楽しむ少年心で、体の中を湧き上がる劣情を押さえつける。
呼吸でヒサの豊満な虚乳が上下して、必死に出てきてはいけない魔物の穴を、蓋で押さえつけている理性をより攻撃される。
僅かだが呼吸による振動が双方から起こり、二人は徐々に前後で、互い違いにくずれて、ユキリの少し低くて、柔らかい肩にヒサの頭が乗って、耳がふにゅっとつぶれる。
ヒサに押し出される形でユキリは、顔を前にしてヒサの圧倒的な虚乳の上に、顔面から落ちる。
そして大きく跳ねた、一説には人間の頭はボウリングくらいの重さがあると言う、そしてお胸は水とほぼ同じ比重らしい、それらの情報がが本当なら、コレは一体どう言う状況だ?
虚乳の上で微細な反発運動を繰り返して、やっと運動が落ち着く、顔を横にしてヒサの虚乳の上に頭が乗った。
乗ったこともすごいが、ここまでだれも意図していないまま、こんな事になるとは思いもしなかった。
しばらくして、息苦しいことに気づいたユキリは、目の前の巨大なボールから離れて、二人は座り直した。
部屋の角にあった延々と風を送り出していた、たった一つの扇風機を囲んで、涼んでいる花々を見て、自分も近くのベンチに座った。
「疲れたー」
「ねー、なんでゲームなのにこんなに疲れるの?」
扇風機の風から顔をあげて、ヒロシに向かって疑問に思ったことを質問する。
「疲れも緊張感も広く見ればストレスだからな、ゲームのプレイに影響するものは外したくないんだろ。
ヒサだって走った後疲れてなかったら、なんか変な感じするだろ。」
一個一個丁寧に、心底真面目に答えたのに、その質問をした当人は、
「確かににいいいい〜〜」
目を閉じて、扇風機の前で大きく口を開き、空気を感じて遊ぶ。
まさかだけど、質問した内容は覚えているよな?そんな事を考えたくなるほど、ヒサはバカっぽく遊んでいた。
その時、ユキリはカップの端っこに残っていたアイスの、最後の一口を食べる。
シャリッ
「うまかった!この味、昔家族で温泉行った時のことを思い出すなぁ。」
ユキリはそう言って、活力を回復させた、
二人の花々は水を与えられたように、シャキッとする。
「ならよかった、獲った甲斐があったよ。」
笑顔のままそうは言った、だがこの男、今言ったことは真っ赤な嘘で、真っ白なアイスの
真実は、ただ近くの売店で買っただけだ。
だがここにも意味はあったのだろう。
ヒロシは少し気まずそうに微笑んで、
そうそう、こうでも言わないと、アイスを受け取るか、またゲームで決めようとか言い出しかねない、ーーと考えていた。
しばらくの沈黙の後、ヒロシが今までの時間ずっと閉めていた封を開けた。今まで遊んでいた時以外は、ずっと聞きたくて気になっていた、答え。
「じゃあ、そろそろ聞いても良いかな。」
そう声をかけると、予想していたユキリは異様に体を固めたまま、ガシャガシャとした動きで、絶妙に気まずそうな顔で、口をウニョウニョと引き締めてるのか、今にも開きそうなのかわからない表情をしている。
ヒサから聞いていた人柄にしても、今までのゲームプレイからも、この顔はユキリにとっても、誰かに見せることも少ない、珍しい顔だとわかる。
「なんで俺らに、ついて来てたのか。」
そんな顔をしたユキリは、所々主語が抜け落ちて、話がちゃんとまとまり切っていない、辿々しい言葉で、ゆっくりと話し始めた。
「二年前からやってるんだ…このゲーム。
今でもまだコアでマイナーなゲームだけど、私はもっと前から、まだマイナーで知らない子の方が多くて、友達は一緒には出来ないし。
だから一人でやろうと思ったけど、上手くいかなくってさ、…さっきのドジ見たら分かるだろ。」
「俺だってミスばっかだよ、初心者なんてそんなもんだ。」
「…もうなんだか馴染めなかったんだよッ。皆んなの前では上手くやってたのが、…
強張りはなくなって来たが、無気力感に飲まれた気がする。ユキリは手をわなわなと動かして、自分の話した言葉が嫌で、ぎゅっと握りしめる。
「そんな時に学校の中で珍しく、
言葉の中に出て来た『仲間』その言葉を機に、ユキリの表情が、ぱぁと明るくなった、気がしたが恥ずかしそうに頭をかいてまた、暗い顔色に戻る。
「それなら、話しかければ良いんじゃ無いか?」
「話しかけたら、バレるだろ、」
ユキリはまた、顔色からもわかるぐらい、
センチになって。
「バレるって俺たちもゲーマーだぞ。」
それに対抗して、ヒロシもまた熱くなる。
「ダメなんだよ!友達だってバレたら!
……もう、」
声帯の振動も次第に大きくなっていって、ヒートアップして来た、頭が熱くなった拍子にふと、その"答え"を言ってしまう。
「あ なんでも、なんでも無い!大丈夫!」
ユキリも口から出てしまった答えなんだろう、驚いた顔で固まって、2秒ほど誤魔化そうとして顔を隠す。
覆水盆に返らず、と言う言葉がある。
言い放ってしまった言葉は、もう戻らない。
ヒロシは、放たれたキーワードと
さっき、手を引かれた時のユキリに関してヒサが言った事を思い出す。
近頃のユキリの、何かがおかしいことに気づいたヒサが、話してくれた。
「会えたことが嬉しくて、言えなかったんだけど、最近のユキリちゃん、少し変だったの。
目が虚で、カラコンをしなくなった。
前の記録からすると、3%ほど髪の膨張量が減っていて、全体的にしゅんとしてたの。
ーーーあ、それにね!最近学校で、よく遊んでた友達が隣にいないんだよ。」
そうか、ユキリは活発で、『リーダーシップのある』人気者、そんな人が最近『友達がいない』
キーワードを繋げていって、やっとのこと、
「ア」
脳内で答えが出かけて、一呼吸おく前の声が出た、答えまではギリギリまで踏ん張った所だったが。
ギロッ
それに、目を向けたユキリも気づくと、今までの小動物みたいなアイドル声とは違い、小動物が喉を鳴らすような低い声で言った。
「オイ、変な勘ぐりはマナー違反だぞ。」
「ごめんッそんなつもりは、」
黄髪が目まで垂れた、顔で対抗はできないかったが、でもかろうじて、瞬時の謝罪の言葉は出た。
これ以上対抗して、良いことがあったのかはわからないでも、ヒロシはユキリとどこか自分を似たものとして、見ていたその感覚が邪魔をする。
また時が止まった、
今日はよく時が止まったような感覚を感じることが多い。
こんな状況、ヒロシは言葉を出せなくなる、ユキリも今は怒った言葉を放って自分からは戻れなくなっている。
ヒサが場面だけは理解できてるのか小声でヒロシに聞く。
「…あの、ゲームの中で現実のことを言うのって、ルール違反なの?」
「リアルのことは通常は聞くべきじゃない、ルールでは無いけどマナーとしてだよ、プレイヤーが無数にいるゲームの世界で身近にいる人と出会うなんて、
…今までの俺らが変だったんだよ。」
言いやすかった、ヒサの聞く態度があるなら、言いづらかった言葉もつらつらと話すことができた。
ヒロシは、そんな妙な達成感を感じていると、今日このゲームの、最後に言葉を言ったのはユキリだった。
「今日は楽しかったよ、うん…
…もうじゃあな。」
ヒロシは声が出なかった、相手にそんな顔をされたら、言えなかった。
カツカツ、下駄の音がこの部屋にだけ響いて、次第にホールを抜けていく。
垂れ下がった尻尾は、体の前まで来てその顔を隠して、顔も見せないまま、去って行ってしまった。
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